ビジネスの世界ではもはや、データを活用することが当たり前になっている。だが、いまだその力が十分に活かされていない分野がある。それが、チェンジマネジメントである。人に関わる変革は、個人の勘と経験に依存した「職人芸」になりがちだが、筆者らは、データの力で「科学」に変わると主張する。


 21世紀のビジネスは、データ重視の革命によって様変わりしつつある。

 たとえばMITメディアラボは、感謝祭の休み明けとなる「ブラック・フライデー」当日における、小売りの売上高を見積る実験をした。店舗から売上げデータが届くのを待つ代わりに、携帯電話の位置情報データを用いて、主だった小売業者の駐車場にどれくらいの客がいるかを推測した。それを、買い物客1人当たりの平均出費額のデータと組み合わせることにより、小売業者の売上高を推定することに成功した(日本語訳はこちら)。業者が売上高を計上する前に、である。

 これは、ほんの1例にすぎない。かつて人間の直感のみに頼っていた判断は、いまでは複雑な分析とプレディクティブ(予測)モデリングから得られる知見によって支えられている。

 小売業者は、人口動態のデータと天候データを組み合わせて売上げを予測し、販売計画を策定する。銀行や金融業者は、顧客が返済する確率を教えるプレディクティブアナリティクス(予測分析)のエンジンを所持している。住宅市場における価格変動は、不動産専門家のチームよりも、グーグル検索の分析のほうが、より正確に予測できる。投資においては、企業が株式公開の可能性について理解し、活用しようと、ビッグデータによる分析に飛びついている。医療やマーケティング、犯罪数の抑制、農業、科学研究など、多くの分野でデータ分析は急速に取り入れられている。

 そんなデータ主導の革命がまだ及んでいない分野に、チェンジマネジメントがある。解決すべき問題がなかったからではない。組織の大規模な変革プロジェクトにおいて、期待されたような成果を上げられなかった失敗例は、これまで多く報告されている。つまり、多くの変革プログラムは、その事業目標を達成していないのだ。

 そうした状況も、変化の時を迎えている。予測分析と大規模なデータセット、そして今日のコンピュータの処理能力の組み合わせが、チェンジマネジメントを変え始めているのだ。

 過去20年の間に、マーケティングの領域がソフトサイエンスからハードサイエンスへと変化したのと同じように、チェンジマネジメントも変化を遂げるだろう。だがそれが可能となる前に、いままでチェンジマネジメントにおいて、なぜデータが取り入れられなかったかを理解しておく必要がある。