北欧で起こっている「サバ戦争」で、近い将来日本の食卓からサバが消える事態が懸念されている。

 サバをめぐって争っているのはノルウェーとアイスランドだ。そもそもノルウェーは、北海サバの年間漁獲量60万トンのほとんどを占める「サバ大国」だ。

 ところが、近年の地球温暖化の影響で、サバが回遊する海域が変わり始めた。サバは寒流を好むため、水温の上昇を嫌い徐々に北上し、ノルウェーの排他的経済水域(EEZ:国際的に自由な漁獲が許されている自国の水域)から、相当量がアイスランドのEEZに移ってしまった。

 豊富なサバの漁場を手に入れたアイスランドは、ここぞとばかりにサバを捕りまくる。2003年以前にはアイスランドのサバの水揚げ量はほとんどなかったのが、10年には11万トンにまで伸びた。濡れ手に粟である。

 ノルウェーにとってこの事態は二重の意味で深刻だった。漁場が小さくなってしまったことに加えて、アイスランドの乱獲によってサバの数が減り、漁獲量がさらに減少する懸念があるからだ。

 世界最大の漁業大国であるノルウェーは、体長が大きく脂の乗った魚を捕るため、厳しい漁獲管理制度を敷いていることで知られる。幼魚や産卵前のメスを捕ることを制限して全体の漁獲量の管理を行い、違反には厳しい罰則を科す。こうすることで魚資源を守り、漁獲される魚の価値を上げる取り組みをしてきた。こうして育ててきた資源を他国に乱獲されることになったのだから、ノルウェーとしてはたまったものではない。

 この事態に慌てたのはノルウェーばかりではない。国内で消費されるサバの90%をノルウェーからの輸入に依存している日本でも動揺が広がっている。ノルウェーの漁獲量が減少すれば、日本への輸出も当然減ることになり、それは価格に跳ね返るからだ。すでに、サバを消費する市場が日本以外にも増えていることもあり、ノルウェーサバの買付け価格は前年比で10%程度高くなっている。

 現在は円高のため、為替差益で価格上昇分は相殺されており、末端の小売価格に影響するまでには至っていない。だが、「今後もし円安になり、さらに乱獲によるノルウェーのサバ資源枯渇が深刻になれば、価格が高騰し日本がサバを買えない可能性も高くなる」と水産関係者は危惧する。

 ノルウェーも手をこまねいていたわけではない。アイスランドに対し、共同での漁獲量の上限枠を設けることを提案したが、交渉は決裂。アイスランドは自国で独自に15万トンの漁獲枠を設けてサバを獲り続けている。さらに、アイスランドの尻馬に乗って、近隣のフェロー諸島も同様に約15万トンの漁獲枠を設け、サバを獲りまくっている。

 事態の打開を目指し、ノルウェー、EU、アイスランド、フェロー諸島の4ヵ国で、10月17日に協議が行われることになっているが、アイスランドやフェロー諸島が譲歩する見込みは薄い。

 じつは、かつて日本も「サバ大国」だった。代表的な魚種である太平洋マサバは約30年前は150万トン捕れていたのだ。しかし乱獲によって09年には13万トンまで激減。現在、ゴマサバなど他の魚種と合わせて計40万トン余りが水揚げされるものの、そのほとんどはまだ脂の乗っていない魚齢0~1歳の魚のため、食用には向かず、飼料用として輸出されているのが現状だ。

 時ならぬ北欧のサバ戦争の勃発で、日本はかつての乱獲のツケを払う羽目になるかもしれない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

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