東日本大震災は、社会や人とのつながりを失った引きこもり状態の人たちの生活に、どのような変化をもたらしたのだろうか。
実は、前々回の当連載で紹介して、非常に反響が大きかったのは、宮城県臨床心理士会事務局長で、東北大学大学院教育学研究科の若島孔文准教授の「ブリーフセラピー」(短期療法)の話だ。
若島氏は、「東日本大震災PTG心理・社会支援対策室」の家族臨床心理グループのメンバーとして、避難所や仮設住宅に「簡易こころの相談室」を開設するなどの支援活動を実施。3月27日には「東日本大震災心理支援センター現地対策室」を設置して、様々な組織や団体のこころのケアチームに参加してきた。
東北大学では、「どうすれば早く変化を起こせるか」だけを考えて、実験や臨床を行っている。たまたま今回、大震災が起きたことをチャンスに変えて上手く利用できたケースでは、実際に変化が起きていることもわかったという。
そこで今回は、前々回、紹介しきれなかった、この若島先生のブリーフセラピーの考えを、もう少し補足したい。
「問題が起きているから助けて…!」
脱・引きこもりの鍵は“役割”の付与
北関東のある県で、10年近くにわたって、生存を確認できていない30歳代の男性がいた。
男性は、マンションで母親と一緒に同居している。母親は自宅のダイニングキッチンに住んでいて、本人は部屋から出て来なかった。
母親は「息子は生きています」と話していたが、母親にそう言われて訪ねて行っても、誰も出て来ない。外部の人たちからすれば、本当に生きているのかどうかもわからず、息子の存在に気づくことはなかった。
マンションを訪問するスタッフは、どんな男性が住んでいるかもわからないため、いつも訪ねて行くのが怖い。たまたま母親がいないときに、恐る恐る玄関のベルを押したら、すぐに「はい」と言ってドアが開き、勢いよく男性が出てきた。