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公園、歩道橋、トイレに、なぜ企業名が付いてるの?
財政難の自治体が飛びつく「命名権」の大売り出し

大来 俊
2011年11月14日
著者・コラム紹介バックナンバー

 渋谷区立区役所前公衆便所に別称が付いていることを、ご存知だろうか。その名も「区役所前トイレ診断士の厠堂」。正面壁面などに「アメニティ」という会社のロゴと共に、大きく掲示されている。渋谷区が2009年にトイレのメンテナンスサービスを展開するアメニティに“ネーミングライツ”(命名権)を売ったためだ。

 同社は命名と共に、新しい設備・機器の設置や清掃、維持管理などを担い、サービスの質の高さをアピールする広告塔としても機能させている。トイレの命名権販売は格好のマスコミネタにもなり、媒体の露出を通じ、企業名の宣伝効果もあった。

 渋谷区はこの他、表参道や代々木八幡、神宮前など11ヵ所の公衆便所の命名権も同じ年に売却した。渋谷区によると、契約期間は3~5年で、命名権料は年10~12万円だ。

 さらに、渋谷駅前の宮下公園の命名権をスポーツメーカーのナイキジャパンに売却。企業名を出さず、「みやしたこうえん」と平仮名表記にすると共に、施設改修を寄付事業として手がけ、今年4月30日にリニューアルオープンさせた。10年契約で年間1700万円を渋谷区側に支払う。

 命名権情報サイト「命名権.com」を運営するベイキューブシー命名権事業部の盛光大輔氏は、「命名権売却は、都市を中心に全国に広がっている。特に、渋谷区や世田谷区、横浜市などが積極的。自治体は施設などの保有財産が多い。財政が厳しい中、その財産をお金に変える手法として、命名権売却に白羽の矢が立っている」と話す。

 実際、自治体は売れるものなら何でも売るスタンスだ。スポーツ施設や文化施設などは序の口で、驚くことに、道路やトンネル、歩道橋などありとあらゆる公共施設の命名権が既に売却されている。今年は、世田谷区で貸自転車施設の命名権が年額300万円で売却され、宮城県では2つのダム(年150万円と30万円、5年契約)の命名権に、それぞれ買い手が付いた。まさに公共施設命名権の大売り出しだ。

2011年11月9日現在、命名権.com調べ。(ただし、バス停、森、歩道橋の命名権は除く)

 もともと施設命名権の売却は、1970年代に米国で始まり、米4大プロスポーツの公共施設を中心に広がった。日本初の公共施設命名権売却は、2003年の味の素スタジアム(旧東京スタジアム)だ。その後命名権ビジネスは拡大し、今の国内市場規模は約50億円と、03年の20倍近くになっている。新たにモノを作る必要はなく、まさに無から有を生む手法に、懐が寒くなってきた自治体が、こぞって飛びついたわけである。

 ただし、いくつかの問題もある。まず、公共施設に民間企業の名称を付けていいのかと言う問題。実際に、渋谷区の宮下公園は、当初「宮下NIKEパーク」に改称する予定だったが、反対運動に遭って断念し、苦肉の策で平仮名表記にマイナーチェンジした。それにもかかわらず、高い命名権料を払い続ける事態となっている。

 契約期間終了により、名称がコロコロ変わることも問題だ。たとえば、渋谷公会堂は2006年から年8000万円、5年契約でサントリーが命名権を取得し、「渋谷C.C.Lemonホール」と改名した。しかし、契約終了の今年に再契約せず、公募したもののスポンサーが付かなかったため、再び渋谷公会堂に戻った。「渋公」の略称が使えることは古いファンにとっては嬉しいが、また違う企業に売却されて名称が変わる可能性もある。これでは利用者は混乱するし、地元民の愛着も薄れてしまう。

 その他、契約企業が不祥事を起こすと、施設自体もマイナスイメージになる。プロ野球の楽天イーグルスの本拠地である宮城球場(宮城県所有)が、その典型だ。最初に命名権を取得したフルキャストが違法行為発覚で契約解消となり、その後契約した日本製紙も、年賀はがきの古紙配合率偽装問題を起こし、しばらくの間「日本製紙」の名称を球場名から外すこととなった。最近もオリンパスの不祥事で、今年4月に新しい市民会館の命名権を同社に売却した八王子市に、批判が出ている。

 しかし、自治体としては背に腹は代えられない。「売り手の意欲は相当高く、引き続き様々な命名権が売りに出されるだろう。ただし、今後は市民の意見をよく聞き、慎重に進める必要がある」(盛光氏)。実際、横浜市では、トイレの命名権売却にあたり、市民から意見を募集した。あくまで市民の共有財産であることに念頭に、気配りの利いたビジネス感覚が求められるだろう。

(大来 俊/5時から作家塾(R)


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