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任天堂はなぜソーシャルゲームをやらないのか(下)
ユーザーに自己効力感を促す制作方針の気骨と強み

石島照代 [ジャーナリスト]
【第25回】 2012年1月10日
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 「誰もが実人生で成功し、達成による自尊感情を持つことができればいいが、なかなかそうはいかない。学校では努力の大切さを教えられますが、努力はいつも実るわけじゃない。でも、自尊感情が損なわれたままで生きていくのは、難しい。それは昔も今も変わらない。

 だから昔から、自尊感情をくすぐるものは儲かることになっている。たとえば、1980年代後半のバブル期に大いに売れた高価なブランドバッグも、周囲の人間に見せびらかすことによって、自尊感情を補完していたと言えます。それが今は、ソーシャルゲームになっただけでしょう」

ソーシャルゲームは、現時点における
「自尊感情補完ビジネス」の最強モデル?

 その一方で松本教授は、「(筆者の)説明を聞いた限りで判断すると、ソーシャルゲームは今のところ自尊感情補完ビジネスにおける最強モデルかもしれない」とも指摘する。

 「仮にソーシャルゲームが『このアイテムを200円出して買えば友達を助けられるよ』と促してお金を払わせ、その対価としてゲーム内コミュニティでの社会的充足を与えるのであれば、これは心理学の行動主義の視点で見ると、『強化』ですよね。バーチャルな社会的充足を強化子にすることで、支払い行動を強化するわけです。

 仮に1課題のコストが200円なら、1万円で50回課題を達成し、ときには仲間からの賞賛や協同行動を繰り返し体験できる。とりわけ、社会性にかかわる自尊感情の充足は、確かに任天堂のゲームでは得られないでしょうから、ソーシャルゲームがビジネス的に強いのは当然でしょうね。1人で閉じこもる世界では、誰も『ありがとう』と言ってくれない。そんな自己満足の世界に、1万円は出せないでしょうね。

 ソーシャルゲームは成功体験を含め、欲しいものは全てお金で買える一方、リアルな人間関係であれば伴うかもしれない煩わしさは一切ない。『バーチャルな社会的充足』という強化子もしっかりしている。そう考えると、ソーシャルゲームは今のところ、自尊感情補完ビジネスにおける最強モデルかもしれませんね」

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石島照代
[ジャーナリスト]

1972年生まれ。早稲田大学教育学部教育心理学専修を経て、東京大学大学院教育学研究科修士課程在籍中。1999年からゲーム業界ウォッチャーとしての活動を始める。著書に『ゲーム業界の歩き方』(ダイヤモンド社刊)。「コンテンツの配信元もユーザーも、社会的にサステナブルである方法」を検討するために、ゲーム業界サイドだけでなく、ユーザー育成に関わる、教育と社会的養護(児童福祉)の視点からの取材も行う。Photo by 岡村夏林

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ゲームソフトをゲーム専用機だけで遊ぶ時代は終わった。ゲーム機を飛び出し、“コンテンツ”のひとつとしてゲームソフトがあらゆる端末で活躍する時代の、デジタルエンターテインメントコンテンツビジネスの行方を追う。

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