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野口悠紀雄の「経済大転換論」

東日本大震災で終焉した日本の輸出立国

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第1回】 2012年1月12日
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 東日本大震災が日本経済に与えた影響のうち最も顕著で明白なものは、貿易収支が赤字に転じたことである。これは、経済政策やものの考え方に、大きな変化を要求する。

年間3兆円程度の貿易赤字になった

 まず最初に、大震災後の貿易収支の推移を振り返っておこう。

 2011年4月の貿易収支は、4677億円の赤字になった。10年4月の貿易収支は7292億円の黒字だったので、1兆2000億円ほど悪化したことになる。この数字は、日本経済が震災によって大きな影響を受けたことを、はっきりした形で示した。5月には赤字がさらに拡大し、8573億円になった。

 4月、5月の貿易収支が赤字となった主な原因は、輸出の減少である。とくに自動車生産が急激に落ち込んだことの影響が大きかった。これは、震災で自動車生産のサプライチェーンの設備が損壊したためだ。その後、設備の復旧が進むにつれて、輸出は回復した。

 しかし、【図表1】に見るように、8、9月を除いては、輸出額の対前年同月比はマイナスとなった。09年12月以降、輸出の対前年同月比は継続してプラスを続けていたので、輸出に大きな変化が生じたことがわかる。

 その半面で、輸入の対前年同月比は、継続して10%を超えた。とくに、8月以降に伸び率が高まっている。その最大の原因は、原子力発電から火力発電へのシフトによって、LNG(液化天然ガス)などの発電用燃料の輸入が増加したことだ。

 11年1月から11月までの貿易赤字の合計額は、2兆2876億円になった。12月の計数はまだ公表されていないが、11年の貿易収支が大幅な赤字になることは疑いない。

 もう少し期間を広げて日本の貿易収支の推移を見ると、【図表2】に示すとおりである(注1)。経済危機前には、ほぼ年間10兆円を超す黒字を記録していた。それが、経済危機によって08、09年には約4兆円程度に減少した。その後回復して、10年には8兆円近くになっていた。これは、04年の6割弱の水準だ。それが、震災後、年間3兆円近い赤字になったのだ。

 日本の貿易収支は、1980年に2兆6000億円の赤字を計上したのを最後に、年間を通じて赤字になったことはなかった。したがって、大きな変化が日本経済に生じたことになる。しかも、80年の赤字は翌年には黒字に転じたのに対して、今後は以下に述べるように、貿易赤字が継続し、拡大する可能性が高い。

 こうした経済構造の変化に応じて、経済政策を基本から組みなおす必要がある。また、為替レートや産業構造に関する基本的な考えを転換する必要がある。

(注1)経常収支は、貿易収支、サービス収支、所得収支に、「経常移転収支」(他国への資金援助や国際機関への拠出金など。図表2には示していない)を加えたものである。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄の「経済大転換論」

日本経済は今、戦後もっとも大きな転換期にさしかかっている。日本の成長を支えてきた自動車業界や電機業界などの製造業の衰退は著しく、人口減や高齢化も進む。日本経済の前提が大きく崩れている今、日本経済はどう転換すべきなのだろうか。野口悠紀雄氏が解説する。

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