日本ガス協会が長期ビジョンを公表!CO2排出量“実質ゼロ”後も「天然ガスは最大50%利用」、大胆方針転換の功罪とは日本ガス協会の内田高史会長(東京ガス会長) Photo:JIJI

日本ガス協会は新しい長期ビジョンとして、「ガスビジョン2050」を公表した。旧ビジョンではカーボンニュートラル実現後は天然ガスを使わないとしていたものを、新ビジョンではカーボンニュートラル実現後も天然ガスを最大50%まで使い続けると、大胆に方針転換したわけである。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、このタイミングで打ち出した背景と、新ビジョンの功罪を説く。(国際大学学長 橘川武郎)

日本ガス協会が新ビジョン公表
天然ガス利用「ゼロから最大50%」に

 日本ガス協会は6月3日、新しい長期ビジョンとして、「ガスビジョン2050」(以下、「新ビジョン」と表記)を公表した。同協会は、2020年11月に長期ビジョン「カーボンニュートラルチャレンジ2050」(以下、「旧ビジョン」と表記)を発表しているが、今回の新ビジョンは、旧ビジョンを改訂したものではなく、新たに策定したものという位置付けである。

 日本ガス協会は、新ビジョンのなかで、都市ガスの安定供給とカーボンニュートラル化に並行して取り組むとし、「災害に屈しない社会・産業・地域の構築に尽力する」「お客様に選ばれ続けるソリューションを提供する」「お客様・地域のカーボンニュートラル化実現に貢献する」という、三つの柱を掲げる。そして、都市ガス事業者は、地域社会や需要家にとって、①信頼されるプロフェッショナル、②お客様・地域に寄り添うパートナー、③発展を支えるイノベーター、になると宣言している。

 しかし、今回の新ビジョンで最も注目を集めたのは、それらの定性的な記述ではなく、2050年のカーボンニュートラル実現時点における都市ガス供給の内訳を示した定量的な記述である。そこでは、旧ビジョンではeメタン(水素ないしグリーン電力と二酸化炭素とから生成する合成メタン)90%、水素直接利用5%、バイオガス等5%とされていた内訳が、eメタンとバイオガスで50~90%、天然ガスとCCUS(二酸化炭素回収・利用、貯留)やクレジット等との組み合わせで10~50%という内訳へ、大幅に変更された。別言すれば、旧ビジョンではカーボンニュートラル実現後は天然ガスを使わないとしていたものを、新ビジョンではカーボンニュートラル実現後も天然ガスを最大50%まで使い続けると、大胆に方針転換したわけである。

 なぜ、日本ガス協会は、このタイミングで大胆な方針転換を打ち出したのか。