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出口治明の提言:日本の優先順位

年金2000億円消失問題の本質は何か

出口治明 [ライフネット生命保険(株)代表取締役会長]
【第39回】 2012年2月28日
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国内独立系のAIJ投資顧問会社が企業年金から運用受託していた約2000億円の資金の大半が消失していることが、23日、証券取引等監視委員会の検査で判明した。AIJはオルタナティブを駆使したヘッジファンド運用で高い運用収益を上げているとの虚偽の情報を顧客に伝えて資金を集めていた疑いがあるとして、金融庁は24日、AIJに1カ月の業務停止命令と業務改善命令を発出して、実態の解明を急いでいる。AIJの廃業は不可避だと思われる。

租税回避地の英領ケイマン諸島を悪用

 オリンパスの「とばし」問題発覚時もわが目を疑ったが、今回の2000億円消失問題についても、とりわけ高いコンプライアンスが要求される今日の運用市場で、このような事件が起こったことについて、茫然自失する思いを禁じ得ない。

 AIJの第22期事業報告書によると、AIJには2010年12月31日現在で118件の年金ファンドが1821億円を委託していた。これが2011年9月末時点では124件、1984億円にまで膨らんだ模様だ。これらのほとんどすべてが投資一任契約だと見られている。

 新聞報道などによると、AIJは租税回避地である英国領ケイマン諸島に登記した3つの私募投信に年金資金を投資することを指示し、実質的なグループ会社であるアイティーエム証券を通じてケイマンに年金資金を流していた。ケイマンに流れた資金は私募投信を管理する英国領バミューダの銀行が、AIJの実質的な指示を受けて、オルタナティブなどで運用していたとされているが、実はそのほとんどが香港に流れていた模様であり、本当に運用が行われていたかどうか(他の用途に流用されていたのではないか)を訝る向きも多い。

 ともあれ、年金資金の9割が消失したと見られている現状では、AIJに運用を委託していた年金サイドに大幅な含み損が発生し、母体企業などの追加負担(穴埋め)が迫られるのは必至の情勢である。穴埋めが上手くできなければ、その分年金給付が切り下げられることになる。最悪の事態は解散となるが、解散するためにも母体企業などに一括拠出が求められるケースもあり、袋小路に陥りかねない。AIJの運用の実態は、今後、司直の手で明らかにされ、AIJ関係者の責任が厳しく追及されるものと思われるが、それでも消失した年金資金が戻ってくることはほぼない。

 AIJの顧客の大半は、トラック業、建設業、電気工事業、管工業など、地域の中小企業が作る総合型の厚生年金基金と見られており、追加負担は容易なことではないと推察される。中には年金資金の半分近くを失う基金も複数あると報道されている。

 そうであれば、直接の被害者はこれら中小企業の従業員である年金受給者だということになる。企業年金は市民の老後の生活を保証する半ば公的な性格を持つ資金である。なぜ、このような杜撰な事件が起こったのであろうか。また、このような事件を二度と起こさせないためには何をすればいいのだろうか。以下、考察を加えてみたい。

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出口治明 [ライフネット生命保険(株)代表取締役会長]

1948年、三重県美杉村生まれ。上野高校、京都大学法学部を卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員会委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て同社を退職。その後、東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを務める。2006年にネットライフ企画株式会社設立、代表取締役就任。2008年に生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更、同社代表取締役社長に就任。2013年6月24日より現職。主な著書に『百年たっても後悔しない仕事のやり方』『生命保険はだれのものか』『直球勝負の会社』(以上、ダイヤモンド社)、『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『「思考軸」をつくれ』(英治出版)、『ライフネット生命社長の常識破りの思考法』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

ライフネット生命HP

 


出口治明の提言:日本の優先順位

東日本大地震による被害は未曾有のものであり、日本はいま戦後最大の試練を迎えている。被災した人の生活、原発事故への対応、電力不足への対応……。これら社会全体としてやるべき課題は山積だ。この状況下で、いま何を優先すべきか。ライフネット生命の会長兼CEOであり、卓越した国際的視野と歴史観をもつ出口治明氏が、いま日本が抱える問題の本質とその解決策を語る。

「出口治明の提言:日本の優先順位」

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