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野口悠紀雄の「経済大転換論」

量的緩和政策の真の目的は
“物価”ではなく“国債”だった?

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第8回】 2012年3月1日
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 前回、「糸で引くことはできるが、押すことはできない」(金融引き締めは効果を持つが、金融緩和政策で経済成長率や物価上昇率を引き上げることはできない)と述べた。

 このことは、実際のデータで確かめられる。これについては、前回の最後に簡単に紹介した。以下では、これをもう少し詳しく見ていくことにしよう。

2001年からの量的緩和政策で
当座預金増が目標とされた

 2001年3月19日から2006年3月9日まで、「量的緩和政策」が実施された。このときに行なわれたのは、つぎの2つである。

(1)日銀当座預金残高の増加

 第1は、市中銀行が日銀に持つ当座預金の残高を増やすことだ。これによって、市中のマネーサプライを増やし、物価上昇率を高めることが目的とされた。

 なぜ準備預金を増やせばマネーサプライが増えるのか?

 仮に、ハイパワードマネー(マネタリーベース)とマネーサプライの比率(貨幣乗数)が一定であれば、「準備預金を増やせばマネーサプライが増える」ということになる(注1)

 そのメカニズムについて、このときに言われたのは、つぎのようなことだ。

 義務付けられている所要額を大幅に上回って銀行が過剰な準備預金を保有すれば、銀行は金利なしの資金を保有するので、収益機会を逃すことになる(注2)。したがって、利益を得るために、貸し出しなどを増加させるはずだ。そうなれば、マネーサプライが増加する(しかし、実際には、後で述べるように、このメカニズムは働かなかった)。

 日本銀行の当座預金は、量的緩和開始前の01年2月頃には、4兆円程度だった。量的緩和政策によって、当座預金残高を5兆円程度とすることが目標とされた。その後8回にわたって目標が段階的に引き上げられ、04年1月以降は、30兆から35兆円程度となった。

 (注1)「ハイパワードマネー」とは、現金通貨(日本銀行券と硬貨の合計)と民間金融機関が保有する中央銀行預け金(日銀当座預金残高)の合計のこと。日銀の統計では、「マネタリーベース」と呼ばれている。「ベースマネー」と呼ばれることもある。

 通貨量の残高を表すものとして、2008年4月までは「マネーサプライ」という言葉が使われていたが、現在では「マネーストック」と呼ばれている(定義も若干変更されている)。マネーストックの指標M1、M2、M3については、前回述べた。本稿では、08年以前の文献も参照するため、「マネーサプライ」という用語を使うこともある。

 (注2)従来、日銀当座預金は無利子であった。しかし、2008年11月に「補完当座預金制度」が導入され、日銀当座預金の平均残高が必要準備額を上回る場合には、上回った金額について、日銀が金利を支払うこととなった。
http://www.boj.or.jp/mopo/measures/mkt_ope/oth_a/index.htm/

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄の「経済大転換論」

日本経済は今、戦後もっとも大きな転換期にさしかかっている。日本の成長を支えてきた自動車業界や電機業界などの製造業の衰退は著しく、人口減や高齢化も進む。日本経済の前提が大きく崩れている今、日本経済はどう転換すべきなのだろうか。野口悠紀雄氏が解説する。

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