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連載経済小説 東京崩壊
【第2回】 2012年3月14日
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高嶋哲夫 [作家]

黒い影

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第一章 

 地下鉄の駅を出て、森嶋真はコートの襟を立てた。

 30分ほど前に地下街に下りたときには小雨だったのが、降りしきる雪に変わっている。

 滑る足元に注意しながらマンションに急いだ。

 駅から徒歩10分、中野のマンションに住み始めて一週間になる。それまではアメリカ東海岸、ボストンに住んでいた。キャリア官僚として国土交通省に入省、ハーバードの大学院に留学していたのだ。

 帰国して公務員宿舎に入る予定が、役所のミスで当分マンション暮らしになったのだ。こんなミスなら大歓迎だと思うが、2DKの古いマンションとはいえ、マスコミに知られれば非難の対象になることは間違いない。

 マンションのドアの前で立ち止まった。廊下の隅に立つ黒い影に気付いた。その影は森嶋を見つめている。

 影が森嶋の方に近づいてきた。

 反射的に身構えた。アメリカでは脅されれば、逆らわず有り金渡してしまえと教えられた。

 「森嶋真だよね」

 黒い影が問いかけてきた。

 「高脇なのか。何してるんだこんなところで」

 「きみを待っていた。電話しても通じないんで。ここは葉山に聞いたんだ」

 高校時代の友人の名をあげた。帰国後会った、数少ない友人の一人だ。

 「アメリカで携帯電話をなくしたんだ。日本で新しい番号に変更したが、まだほとんど知らせてない」

 「寒いよ。中に入れてくれ」

 確かに、声が震えている。

 森嶋は急いでドアを開けた。中も気温は変わらないはずだが、雪と風が遮断された分、温かく感じる。

 「顔色が悪いぞ。何か飲むか」

 森嶋はエアコンのスイッチを入れ、やかんをコンロにかけながら聞いた。

 高脇はアルコールが体質的にダメなのだ。ビール一杯で意識を失いかけたことがある。

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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