東京都議会での、ある都議による“不適切な性教育”発言がきっかけとなり、中学校での性教育を巡る議論が過熱している。有識者への取材および発言した都議本人からの回答を踏まえて、性教育はどうあるべきなのかを考察してみたい。(取材・執筆/末吉陽子、編集/清談社)

都議が疑問視したのはなぜ?
不適切とされた性教育授業とは

中学校の性教育で大論争、東京都議vs教育現場それぞれの言い分<br />中学生に避妊や中絶を教えるのは不適切ーー足立区の中学校で行われた性教育に対して、東京都議から疑義の声が上がった(写真はイメージです。本文とは直接関係はありません)

 コトの発端は、3月16日に開かれた東京都議会文教委員会。自民党所属の古賀俊昭都議が、足立区の中学校で行われた人権教育および性に関する教育の授業について、「不適切な性教育の指導が行われているのではないか」と東京都教育委員会(以下、都教委)に答弁を求めたことにはじまる。

 筆者は、2月12日公開の記事『日本の性教育は時代遅れ、ユネスコは小学生に性交のリスク教育推奨』において、日本の公教育が担うべき性教育の在り方について言及した。今回、まさに公立中学校での性教育について、政治家から疑義を唱える声が上がったわけだが、果たして何が問題視されたのか。

 まず、古賀議員が「不適切ではないか」と指摘した性教育の授業について、触れておきたい。3年間で合計7時間実施される「性の学習」と名付けられた授業では、1年生で「生命誕生」「らしさについて考えよう」、2年生で「多様な性」、3年生で「自分の性行動を考えよう(避妊と中絶)」「恋愛とデートDV」など、段階を踏んでテーマが設定されている。

 なお、「性の学習」とは別に、保健体育の授業でも、「月経」「射精」「性感染症」「エイズ」などについて学ぶ。これらの授業案作成に携わった、性教育研究の第一人者、埼玉大学教育学部の田代美江子教授に、授業内容のポイントについて聞いた。

「重要視しているのは、『自分の性行動を考える』教育プログラムにすることで、レクチャー型ではなく、いわゆるアクティブラーニング型にしています。例えば『高校生になったら性交してもいいかどうか』というテーマを立て、それについて8人くらいの代表生徒が意見を述べ、オーディエンスが意見を重ねていくという方法です。教師はファシリテーターとして意見をまとめたり、新たな問いを投げかけたりしながら、議論を活性化させる役割を担います」

「『愛し合っていればいいんじゃないか』という意見が出たとすると、『ではもし妊娠したらどうする?』と別の切り口を投げかける。こうした、明確な答えなき問いを繰り返すことで、皆で頭を悩ませながら『自分だったらこうする』ということを真剣に考える場にしています」