「社会の縮図」とも言われる刑務所で起きた模範囚脱走事件。ハラスメントで受刑者に社会のルールを叩き込むという日本の刑務所システムは、日本企業の教育システムにも通じるが、この「ハラスメント型マネジメント」は右肩上がりだった時代の産物で、もはやオワコンである。(ノンフィクションライター 窪田順生)
先進的刑務所だったのに…
なぜ模範囚が脱走したのか
「働き方改革」とか叫んでいるわりには、ちっともうちの会社は働き方が変わらない。むしろ、「プレ金」だ「定時退社デー」だとか耳当たりのいい制度はできるけど、仕事の量がいっこうに減らないので結局、カフェや自宅で仕事をしている――。
働く人たちから、そんな「不満」の声をよく耳にするが、それも当然かもしれない。耳当たりのいいスローガンを掲げても、なにやら新しい感じのする取り組み、新しい感じのするスタイルを導入しても、結局、その組織の根幹をなすシステムが毒されていれば、なにも問題は解決されないからだ。
この構造を理解するうえで、非常にわかりやすいケースが最近あった。みなさんもテレビなどで連日のようにご覧になったはずだ。
松山刑務所大井造船作業場での、受刑者の脱走劇である。
なぜあの騒動が「働き方改革」に関係するのかと首を傾げる方も多いだろうが、実は刑務所は「現代社会の縮図」と言われている。
たとえば、日本の刑務所もすさまじい高齢化が進み、彼らの医療費で財政が危機的状況になっている。若者の入所は減ってきている一方で、シャバに出ても仕事のない高齢者たちが、生活保護を求めるかのように、「三食と寝る場所」を求めて再び刑務所へ舞い戻る。
「塀の中」には、日本の近未来を彷彿とさせる社会が広がっている。「塀の中」は「現代社会」の合わせ鏡なのだ。
それを踏まえると今回、27歳の模範囚が、出所を半年先に控えて脱走したことの意味は大きい。
ご存じのように、彼がいた大井造船作業場は「塀のない刑務所」と呼ばれる開放的施設だ。従来の刑務所のように厳格なセキュリティもなく、行動も格段に自由、その実社会に近い環境のなかで、しっかりとした更生ができるということを売りにしていた。