翌朝、森嶋は駅のスタンドで東京経済新聞を買った。

 一面の左上に署名記事がある。野田理沙の記事だ。森嶋の情報と引き換えに理沙が行なった総理との単独インタビューだ。

 森嶋の目が止まった。記事の中に「首都移転」の文字がある。現在の社会、政情、経済不安はかつて遷都を行った時代にも似ている。その打開策の一つに例えば遷都があると、総理の言葉として書いている。果たして総理の口から自ら出たものか、それとも理沙の巧みな誘導で総理が口走ったのか。しかし、その言葉は森嶋の精神に鋭利な刃物のように突き刺さっていく。

 もう決して絵空事ではないという意識が強く浮き上がってくる。

 移転チームの部屋に入ると数人が集まっている。その1人が森嶋に向かって新聞を振った。

「載ってるぞ、首都移転。総理の口から出たとは驚きだ」

「しかし、この言葉が出たってどうということはない。また政治家の一時の気まぐれだ」

「そうとは限らないだろ。現実に俺たちがその準備をやってるんだ。いつでも実行に移せるように」

「実行に移すと言っても、何年もかかる仕事だ。俺たちが具体的な計画をまとめ上げて政府に提出する。まず法案化して、それを国会で審議する。すんなり通るとは思えないね。東京に選挙区のある議員や、多少なりとも関係している議員は必ず反対する。その数は過半数を遥かに上回る。絶対に解散、選挙がいるだろうな。そうなると国民の間でも意見は分かれるだろう。経済界だって大もめだ。東京支持派と反支持派ってところだ。日本が二つに分かれるわけだ」

「俺たちはそんなこと考える必要はないんだ。言われたことをやってりゃ、あとは政治家が考えてくれるさ。俺たちが何かやると、マスコミは省庁の利益優先だ、官僚の保身だって騒ぎ立てるだけだ」

「政治家は思い付きを言ってるだけだ。その思い付きのフォローに俺たちがどれだけ時間と手間暇を使ってるなんて考えたこともないんだぜ。マスコミも無能で無責任だ。官僚を叩いてりゃ国民が喜ぶって信じてるんだ。いずれにしろ貧乏くじを引くのは俺たちってわけだ」

「じゃ、首都移転も政治家の思い付きにすぎないって言うのか。俺たちは思い付きに付き合わされて、人生を棒に振るってわけか。やめてくれよ」

 ドアが開いて遠山が資料の山を抱えて入ってきた。今日も村津の姿は見えない。

 森嶋たちは席に戻っていった。