「カスタマイズ」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。多くは、ソフトウェアの設定・開発、自動車やバイクの改造、といったプログラミングやメカニカルな世界をイメージするだろう。外食産業での「カスタマイズ」がトピックに上ったのは最近で、その言葉を有名にしたのがスターバックスコーヒーだ。

 スタバのビバレッジ(ドリンク)は好みに合わせてカスタムチェンジできるが、驚くべきは、そのカスタマイズアイテム(種類によって有料or無料)の豊富さだ。ミルクの種類を変更したり、コーヒーの量を調整したり、ホイップクリームやエスプレッソショット、チョコチップ、コーヒージェリー、各種シロップ・ソースを追加したり……。組み合わせの種類は、フラペチーノだけでも200通り以上にもなるという。

 スタバには、他のコーヒーショップに類を見ないほど“マニア客”が存在する。筆者の周りにも「1日1回以上スタバへ」を信条とする友人やタンブラーコレクターがいるが、スタバマニア度が高いほど、カスタマイズへのこだわりが強いようだ。

 自分好みの1杯を追求する面白みはもちろんあるだろう。それに加えて、“通”であることの優越感が少なからず作用しているように思う。“通”の度合いがより高いのが、次に紹介する外食チェーンの「メニューに載っていないカスタマイズ」だ。

 最近話題なのが、餃子の王将。一番シンプルなカスタマイズは餃子の「ヨクヤキ」で、注文時に「ヨクヤキで」と伝えると、通常より焼き時間を長く、バリッと焼いてくれるというものだ。その他にも、天津飯のごはんを焼きめしに変更したり、あんかけの代わりに海老チリをかけたり、中華飯のあんかけを増量したり……。どれもメニューには載っていないが、“お願い”すれば可能な限り対応(種類によって有料or無料)してくれるらしい。

 飲食店でのこういった“お願い”はよくある話だが、全国的にレシピや価格が決まっているようなチェーン店で自分のわがままを個別に聞いてもらえると、ちょっと嬉しいものだ。大げさかもしれないが、そのときばかりは厨房の料理人が自分のためだけに腕を振るってくれているようなVIP感がある。

 歯痛に悩んでいたオペラ歌手の「柔らかいステーキが食べたい」という欲求に応えるために考案された、帝国ホテルのシャリアピン・ステーキ……とは次元こそ違うが、同じカスタマイズには違いない。特別扱いされると嬉しいし、カスタマイズの選択肢を委ねられると追求したくなる。“通”になれば、なかなか他の店に浮気はしないものだ。

 イレギュラーな注文にはそれなりに時間も手間もかかるため、お客の要求にどこまで応えるかは、店の判断による。しかし、カスタマイズは、その店がお客1人ひとりに寄り添えるサービスやサービス精神をどれほど持っているかの「見せどころ」でもある。

 カスタマイズをリピーター獲得の「戦略」と言ってしまうとあまりにも素っ気ないが、ちょっとしたわがままくらいなら聞いてくれる柔軟な店にはファンがつくし、それがプロの仕事というものだ。画一的な商品やサービスに慣らされてしまった現代人の目に、「カスタマイズ」は新鮮に映るのかもしれない。

(おおたゆうこ/5時から作家塾(R)