デジタル技術を活用したビジネス革新やデジタルビジネスの創出において、オープンイノベーションや他社との共創の重要性が叫ばれている。今回は、ユーザー企業とITベンダー企業との協業を中心に、その必要性と成功への留意点を整理したい。

共創が求められる背景

 従来の一般的な企業IT(エンタープライズIT)の領域では、SI企業などのITベンダーは、ハードウェアやソフトウェアなどモノの購入先であり、ヒトによる役務の業務委託先であった。正確かつ確実にデータを記録するSoRシステムやそれを支えるITインフラの構築・運用においては、要件を明確にし、RFPを作成してベンダーから提案を得て、選定するというプロセスが有効に機能し、ユーザー企業とITベンダーは明確な役割分担に基づく受発注の関係が成り立っていたためである。

 一方、各業種の本業である業種特化系・事業系を含むビジネスITや、新規事業や新業態を創出するデジタルビジネスの領域では、ビジネス環境の変化に迅速に対応できるSoEシステムの構築や、IoTやAIなどの不確定要素が多い新規技術の活用が前提となるため、初期段階で要件を確定しにくい案件となることが多い。したがって、この領域では、企画段階からITベンダーと協力して、アイデア創出と実装を短いサイクルで回し、段階的にイノベーションを実現していく協業のスキームが必要となる。

 もちろん、ITベンダーに頼ることなく、アイデア創出から試作・実装、継続的改善まで全て自前でやり抜くという選択肢がないわけではない。しかし、多くの企業ではIT人材が不足しており、特に開発実務を行うための技術スキルが空洞化しているケースが多い。アジャイル開発やリーンスタートアップの手法に慣れている技術者も少なく、AIやIoTなど革新の著しい技術を常に習得し続けることも困難な状況といえる。

 デジタルビジネスの世界においては、他者を巻き込むことで、互いの強みを活かし、早期立ち上げを実現することが有効となる場合が多い。そこで取り入れるべきが、共創の考え方である。

 共創とは文字通り「共に創る」ことであり、自社以外の企業、団体、個人などと共にアイデア、イノベーション、ビジネスなどを創出することを意味する。すなわち、「共に創る」の「共に」の相手は、サプライヤーやディストリビューターといった従来のバリューチェーン上の企業だけでなく、顧客となる消費者、同業の競合企業、異業種の企業、学術・研究機関、公共機関、個人のプロフェッショナルなどを含み、「創る」ものは商品・サービスだけでなくあらゆる社会的・経済的な価値を含むと考えることができる。

 アイデアの創出から、デジタルビジネスの創出、そして展開といったそれぞれのステージにおいて、図に示すような共創によるメリットと考慮点が存在する(図1)

ITベンダーは、ビジネスの“共創パートナー”になれるか