「売れるなら、中身なんて何でもいい」と断言した作家

 冗談のような話なのですが、「売れるなら、中身なんて何でもいい」と断言した作家がいたそうです。冒頭で紹介した40代クリエイターが聞けば、卒倒しそうな言葉です。作家といえば、売れる売れないに関係なく、自分が信じることを書く。たとえ読者が一人もいなくても知ったことか、と考える。ひと昔までの作家とはそういうものだったと思うのです。

 けれども、これが今まさに起きていることを象徴しているのでしょう。

 「いい物を作って売る」のではなくて、「売れるものがいい物」。そうした価値観の逆転を、この作家の言葉はぴしゃりといい当てているように感じます。

 売り手も変われば、同時に買い手も変わります。作家が売れるものを書けば、読者は売れているものを買う。最近の傾向として、ベストセラー上位の作品に人気が集中するようです。その傾向は、電子書籍が登場してからさらに顕著だとか。ベストセラーとして売り出されることで、相乗効果を生んでさらに売り上げが伸びるというのは、昔からあるでしょうが、最近は「ベストセラーだけ」を買う人が増えているらしい。

 私なんかは古い人間で、しかも生まれつきの天邪鬼ですから、「売れ筋の本を買うなんて恥ずかしい」と思ってしまいます。おそらく他の人も、多かれ少なかれ、そんな感覚を持っていたのではないでしょうか。ベストセラー本のワゴンから流行作家の作品を手に取るのはどこか気恥ずかしい。だから、若い人でも背伸びをして、ちょっとレアな玄人好みの本を読んでいたように思います。

 ところが、今、起こっているのは真逆の現象です。あれこれ迷うより、手っ取り早くベストセラーの1~3位を買っておけばOK、という人が増えています。