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連載経済小説 東京崩壊
【第46回】 2012年6月29日
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高嶋哲夫 [作家]

カンフル剤

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第3章

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 長い沈黙が続いた。しかし実際は、1分程度にしかすぎない。

 殿塚が顔を上げて総理を直視した。

 「分かりました。自由党は私の責任でまとめます。法案の国会通過に協力しましょう」

 総理は思わず背筋を伸ばした。殿塚は、表情も変えず続けた。

 「さっそく党に持ち帰って出来る限り早い時期に、石崎党首との会談をセットします」

 「ぜひお願いします」

 総理は無意識の内に頭を下げていた。

 ドアの外で声が聞こえ始めた。秘書がしきりに外を気にしている。マスコミが総理の姿が見えないことに気づいたのだ。

 「部屋を出てください。私は後ほどゆっくりと」

 殿塚の言葉に総理はドアに向かって歩いた。

 わずか10分余りの会談だったが、これでいいのかと思うほど上手くいった。

 道州制とセットで考えると言ったとたん、殿塚の顔つきが変わった。殿塚が道州制の導入を長年訴え続けているとは聞いていたが、あれほどだとは思わなかった。

 いや、これはあの男だけが考えているのではない。時代の流れだ。国が巨大化し、国民の意識も広がった。乗り気でないのは官僚と選挙に弱い政治家だけだ。いや、もっとも手ごわいのは東京都民だ。彼らをどう説得するかがカギになるだろう。

 「だが思ったより、上手くいくかもしれない」

 総理は低い声で呟いた。

 

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    高嶋哲夫 [作家]

    1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
    1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
    日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


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    「連載経済小説 東京崩壊」

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