太平洋の向こう側が荒れている。

 北京大学周辺で、初めて反日デモの現場を目撃し、「中国人民が何を考えて、何に悩んで日本に抗議しているのか」を、身を持って感じてから早7年。あの体験は、その後、私が中国の論壇で発信していくきっかけになった。忘れられない思い出でもある。

 私は現在、太平洋のこちら側、それも大西洋に近い米ボストンに身を置いている。今は心のアルバムをめくりながら、国内外の各種報道に目を通して、現地の状況がどうなっているのか、想像を膨らますことしかできない。

「真実はいつも現場にある」をモットーに執筆・言論活動に取り組んできた人間として、いまの自分の置かれた状況は、とてつもなく歯がゆい。

心ここにあらず……

 9月13日木曜日、私は北京で取材活動を続けている、あるジャーナリストと電話をしながら、野田政権が国有化の手続きを済ませてからの現地の反応を知ろうとしていた。

 彼から返ってきた言葉は「今週末は大変なことになるよ」だった。私も「国交正常化以来、最大規模の反日デモが起こる」という予感がしていたのだが、案の定、予感は的中し、現実となった。

 日中関係は日を追うごとに悪化した。40年前に国交正常化して以来、最大の危機に陥ったと言っても過言ではない。私は居ても立ってもいられない、落ち着かない気持ちになっていた。北京からボストンに拠点を移してから、わずか2週間強のあの段階で、すでに私は「心ここにあらず」の状態だった。

「中国へ帰ろう。いま反日デモの現場にいなくてどうするんだ!? 言論に従事している人間が、いま世界が注目している現場にいなくてどうするんだ!?」

 部屋で一人、頭を抱え、自問自答を繰り返していた。

 日中両国は、緊張状態がピークに達していた。私はほとんど無意識のうちに、パソコンを開き、両手はすでにパソコンのキーボードを必死に打ちながら、北京行きの航空券を予約しようとしていた。ハーバード大学での仕事のことなど考えもせずに。

 フライトの時間帯やクレジットカードの情報など、すべてを記入し終え、最後の「購入」ボタンを押そうとした瞬間、不意に手が凍りついた。

「本当にこれでいいのか?」
 「私は何のためにアメリカに来たんだ?」
 「これじゃあ、これまでと一緒じゃないか?」