日本人には、「できない」ことがたくさんある

「挑戦しない脳」の典型例は、偏差値入試。<br />優秀さとは何か、を日本人は勘違いしている<br />【茂木健一郎×ジョン・キム】(前編)

キム アメリカの競争力の源泉は、世界からアメリカにやってくる人にありますね。ブッシュ政権下、「9.11」以降、移民政策が厳しくなったことは、ある意味ではテロよりはるかにアメリカの中長期的な社会的繁栄の弊害になっているというレポートも出されていました。日本はまだ選択がし切れていませんよね。開かれた社会の中で繁栄していくのか、そうでない道を選ぶのか

茂木 僕は選択しますよ。キムさんみたいな、優秀な人はどんどん入れるべきなんです。アメリカだけじゃない。ニュージーランドだって、シンガポールだって、いろんな国がやっている。もっといえば、今や世界の中でも本当に強くなったサッカーがそうじゃないですか。外国人の監督だし、日本のJリーグには外国人がいっぱいプレーしている。

 逆に日本のプレーヤーがヨーロッパの名門チームで活躍している。タレントがどんどん移動するのが、今や当たり前の時代。サッカーは、それを先取りしているだけです。そして、実際に強くなった。どうしてサッカー以外でも、それができないのか。

キム 少なくとも、日本人でなければ、日本という国の本質を深く理解できない、というのは大いなる誤解だと僕は思っています。逆に外から、自分たちの文化を理解した目で、日本の文化も理解する。そうすることで、相対的な違いも見えたり、日本の良さも見えてくる。日本人が気づいていない良さにもきっと気づける。もちろん、外国人でなければいけない必然性はありませんけど。

 これは茂木さんの本の中にもありましたが、異質な視点があることによって、新しい組み合わせが見えてきたりするわけですよね。創造というのは、まったくのゼロから生まれるのではなくて、そういう新しいコンビネーションから生まれるんだと僕は思っています。そこから、既存の文脈を超えた創造の芽が生まれる。外なる国際化が難しいなら、内なる国際化でも構わない。逆に、こういうこともでもないと、打開策はなかなか見つけられない気がします。

茂木 僕は、そろそろ日本人はちゃんと気づいておかないといけないと思っているんです。それは、「できない」ということです。自分の母校でありながら、僕は東大の悪口をずっと言ってきたけど、冷静に考えて、東大の教授たちにスティーブン・ビンカーやチョムスキーみたいな本を英語で書いて、世界の文明史に残したり、ひっかき傷を残したりすることは、意欲がなくてやらないんじゃなくて、能力的にできないんだということに思い立ったんです。

 メディア報道も同じです。日本には記者クラブというものがあって、新聞社がこのクラブに守られて、取材したメモが一致するかどうかを確かめる、みたいな変な風習がある。そんなことはしないで、ニューヨークタイムズの記者のように自分の筆一本で書けばいいじゃないかと思うんですが、できないんですよ。これまでの日本の教育はじめ、育てられた環境の中では、できないんです。

 日本の新聞をまじまじと眺めていると、はっと気づいたことがありました。東京電力が原発事故のときいかに無能だったか、が書かれていたんですが、日本の新聞って、ジャーナリズムとしての、ある重大な資質が欠けているんです。欧米のメディアと何が違うのかというと、欧米ではコンセプチュアルじゃないと、そもそもニュースの価値がないんですよ。

 新しい飛躍や視点が出て、初めてニュースになる。すでに情報としてあって、それを追認するような記事を書くのは、ジャーナリズムとしての意味がない。

キム 現状を見て、評価するところで終わるのではなくて、例えば未来の行動において、どんなインプリケーションを持っているかというところまで例示しないと、記事としての価値は高まらないということですね。

茂木 つまり、日本人には「できない」ことがたくさんあるということなんです。それを認めるところから、いろいろなものは始まっていかないといけないんです。

(後編に続く)

「対談 媚びない人生」バックナンバー

第1回 媚びない人生とは、本当の幸福とは何か 『媚びない人生』刊行記念特別対談 【本田直之×ジョン・キム】(前編)

第2回 大人たちが目指してきた幸福の形では、もう幸福になれないと若者たちは気づいている【本田直之×ジョン・キム】(後編)

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第4回 世界を知って、日本をみれば「こんなにチャンスに満ちあふれた国はない」と気づくはずだ。【出井伸之×ジョン・キム】(後編)

第5回 苦難とは、神様からの贈り物だ、と思えるかどうか【(『超訳 ニーチェの言葉』)白取春彦×ジョン・キム】(前編)

第6回 打算や思惑のない言葉こそ、伝わる【(『超訳ニーチェの言葉』)白取春彦×ジョン・キム】(後編)

第7回 いつが幸せの頂点か。それは死ぬまで見えない【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(前編)

第8回 国籍という枠組みの、外で生きていきたい【(『続・悩む力』)姜尚中×ジョン・キム】(後編)


 
「挑戦しない脳」の典型例は、偏差値入試。<br />優秀さとは何か、を日本人は勘違いしている<br />【茂木健一郎×ジョン・キム】(前編)

 

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【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

「挑戦しない脳」の典型例は、偏差値入試。<br />優秀さとは何か、を日本人は勘違いしている<br />【茂木健一郎×ジョン・キム】(前編)
定価:1,365円(税込)
四六判・並製・256頁 ISBN978-4-478-01769-2

◆ジョン・キム『媚びない人生
「自分に誇りを持ち、自分を信じ、自分らしく、媚びない人生を生きていって欲しい。そのために必要なのは、まず何よりも内面的な強さなのだ」

将来に対する漠然とした不安を感じる者たちに対して、今この瞬間から内面的な革命を起こし、人生を支える真の自由を手に入れるための考え方や行動指針を提示したのが本書『媚びない人生』です。韓国から日本へ国費留学し、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、3大陸5ヵ国を渡り歩き、使う言葉も専門性も変えていった著者。その経験からくる独自の哲学や生き方論が心を揺さぶられます。

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