武田薬品「破壊と創造」#2Photo by Masataka Tsuchimoto

武田薬品工業は聖域なき資産売却を進め、全国の一等地も大衆薬「アリナミン」なども手放していった。それでも残っているのが東京のグローバル本社と大阪の旧本社跡だ。特集『武田薬品「破壊と創造」』(全7回)の#2は、武田薬品が本社を売らずにきた裏にある「創業家の呪縛」を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

残された二つの本社不動産
「売れば創業家のたたりが降りかかる」

 武田薬品工業は「大借金王」である。

 2010年代にスイス・ナイコメッド、米アリアド、アイルランド・シャイアーと大型買収を重ねた結果、19年3月末の純有利子負債は約5兆1000億円余りまで膨らんだ。

 大借金王は、生え抜き社員には愛着がある大阪の登記上の本社ビル(武田御堂筋ビル)、大衆薬「アリナミン」を販売する子会社(現アリナミン製薬)、非注力領域の製品群などを次々と売却した。キャッシュをつくり、借金返済に充てるためである。それでも21年3月末で約3兆4000億円の純有利子負債を抱える。

 タブーなき資産売却をしてきたように見えるが、売らずにきた一等地の不動産がある。

 東京のグローバル本社と大阪の旧本社跡だ。

 武田薬品の創業家筋はおどろおどろしい言葉を口にする。

「この地は武田薬品の聖域。売れば創業家のたたりが降りかかる」

 旧本社跡の地中には、かつての大阪・船場商人の商慣習として「金の玉」四つが眠るとの言い伝えが残る。商売が傾いた折は、その金の玉を掘り出し、会社再興に役立てよという意味だ。青銅製で金銭的価値は低いとみられるが、創業家の先祖たちの魂が込められたものである。

 この金の玉の眠る地を荒らす者にたたりがある――。そんなホラー話が本当に「本社不動産」を売らない理由になっているわけではない。