テック・スタートアップといえば「シリコンバレー」というイメージが強い。そんな中、アメリカ最大の商業都市「ニューヨーク」も黙ってはおらず、最近は「選択肢として、シリコンバレーではなく、ニューヨークも起業の候補地」と言われ、実際2000万ドルを超える資金調達に成功したスタートアップが、ニューヨークで数多く立ち上がっている。
なぜスタートアップはニューヨークに引き寄せられるのか? ニューヨークのスタートアップを支援し続けてきたアクセラレーター「ERA」(Entrepreneurs Roundtable Accelerator)のマネージングディレクターMurat Aktihanogluに話を聞いた。

5年前、スタートアップにとって
ニューヨークは「何もない場所」だった

Entrepreneurs Roundtable Acceleratorは、ニューヨークに拠点を置くスタートアップ・アクセラレーター(スタートアップ企業の育成・投資団体)。その評価は、アクセラレーターとして有名なY コンビネーターなどに匹敵する勢いだ。アクセラレーターは通常3ヵ月程度の育成プログラムをスタートアップ企業に提供し、彼らが投資を受けられる状態まで育てることを生業とするが、ニューヨークに本拠地を置く団体は少ない

岡本 まず、ERAがベンチャー企業の育成・投資機関であるアクセラレーターとしての活動を始めたきっかけは?

Murat Aktihanoglu(以下、MA) 5年前、僕や今の共同経営者たちはニューヨークでテック企業を興したけれど、当時のニューヨークにはそうした企業を支援するシステムが存在しなかったし、ベンチャー企業が参加できるようなイベントもなかった。それで僕らは法律事務所の友人たちと一緒になって、それこそ20人くらいの人々に「何か問題はないか?」と尋ね、お互いに助け合うことにしたんだ。

岡本 誰も支援してくれないなら、自分たちで今ある問題を見つけ出し解決していこう、と。

MA そう。これがとてもよかったんだ。それでその活動がだんだん大きくなった。そして、あるとき僕らのイベントに、投資ファンド、ユニオン・スクエア・ベンチャーズ*1の共同経営者Albert Wengerがやってきて、起業家たちの質問に応えるという機会を得たんだ。そのとき、彼は僕にこう言った。「なんでスタートアップを集めて、投資ファンドに売り込まないんだ?」
*1 Union Square Venturesは、ツイッターなどにも出資をしている、投資ファンド。設立者は「フリーミアム(無料提供して、プレミアムサービスを有料課金するモデル)」のビジネスモデルを提唱した、Fred Wilson。本文中で登場するAlbert Wengerも共同設立者の一人。

岡本 なるほど、彼が最初のアイデアを授けてくれた。

MA それで僕らは投資家を講演に呼んで、スタートアップを投資家に売り込み始めた。それまでは、みんなどうやって売り込んだらいいか、市場規模や事業計画をどう説明したらいいか、また投資家がどんな反応を示すかほとんど知らなかったから、これは本当にみんなの役に立ったんだ。

岡本 最初は非営利の活動だった。

MA そう。しかし2年前、共同経営者のジョンとチャーリーと僕は、起業家たちのイベントで5つの会社のプレゼンを見ながら、「いい会社だから、きっと出資を得られるよ」と話していた。そのとき、「ファンドもやろうよ」ということになったんだ。そしてアクセラレーターとして育成プログラムも始めよう、と。それが現在、僕らがやっているビジネスの始まりだった。つまりERAは、最初は非営利でニューヨークの起業家を援助する組織として始まったが、3人の共同経営者が参加企業の質の高さに気付いて、アクセラレーターとしての育成プログラムも始めることにした、というわけだ。

 現在、ERAは育成プログラムへのスタートアップの参加者を募って、そのプログラムの中から10社を選んで、ERAのデモ・デイで投資家へのプレゼンを行っている。また一方でスタートアップを集めて、情報交換や顔合わせができるイベントも行っているんだ。