将来の経済大国・ベトナムとの「歴史戦」で日本は負ける

「おいおい、なんだよ、この妄想ドラマ」と冷笑している方も多いかもしれない。「ベトナムは親日国なんだから、こんなバカな反日デマに踊らされるわけがない」と考える人もいるかもしれない。

 ただ、それは現在の感覚で見ているからだ。今、ベトナムは経済成長も著しく、中国にとって代わって「世界の工場」となってきている。2050年には最も経済発展を遂げた国のひとつとなっている、という予測レポートも多くある。

 つまり、2050年のベトナムは現在のように、日本に出稼ぎなどしなくていいほどの経済大国になっている可能性が高いのだ。

 経済が急激に成長をした国で、急激にナショナリズムが強まるというのはお隣の中国を見ても明らかだ。では、ベトナムでも同じ現象が起きた時、かの国の若者たちが、自分たちの親世代が、日本で受けたひどい仕打ちを教育されたらどうなるのか。

 中国や韓国ではおなじみの、「反日ムード」が高まるのではないか。政府も国民の不満が為政者に向かないようにさせる「ガス抜き」や、日本政府との交渉で優位な立場が取れるような「外交カード」として利用していくようになるのではないか。

 よくこの手の話になると、「技能実習生にひどい扱いをしているのはほんのひと握りで、ほとんどの企業では大切に扱っている」とか「オレの知っている会社で働く外国人と社長は親子みたいに仲がいい」とかいう反論が出てくるが、国際的な情報戦でそういう話はほとんど役に立たない。

 わかりやすいのが、「旧日本軍の蛮行」だ。日本軍は当時の世界の軍隊の中でも非常に統率が取れていた。戦争のどさくさに紛れて行う略奪や強姦などはほとんどなかった。侵攻していた中国でも、規律のある日本軍は信頼されていた。筆者も実際に当時、大陸に行った元陸軍の人たちから、村をあげて歓待されたとか、「うちの娘を嫁にもらってくれ」と迫られなんて話をよく聞いた。

 一方で連合国の捕虜をたくさん殺したのも事実だ。日本軍では「投降して生き恥をさらすなら死ね」という教育が当たり前だったし、大陸の奥深くまで侵攻したことで、物資もなければ食料も満足に補給できなかった。敵国の兵士が白旗をあげて投降しても捕虜として収容するだけの能力がそもそもなかったので、現場判断でどんどん処刑していた。それと同じ理由で、怪しい民間人も多く殺してしまった。これは捏造でもなんでもなく、さまざまな資料・証言で裏付けされている。

 つまり、「外国人の被害者」が多くいるのだ。だから、敗戦国の日本がどんなに当時の日本軍は立派な組織だと主張しても、個々の人間に悪意がないと反論しても、国際社会では「蛮行」が後世に伝えられて、歴史の中で定着してしまう。

 日本軍の戦争犯罪、従軍慰安婦、徴用工問題など、戦後の日本人はこういう「歴史戦」で負け続けてきた。

「確かに悪いことをする人間もいたかもしれないが、組織的ぐるみで命令したわけではない」なんて言って、個人の責任にすれば切り抜けられると思ったが、ことごとく失敗している。

 今のままでは「技能実習生問題」も同じ道をたどる。子どもや孫世代にこれ以上、迷惑をかけないよう、愚かな政策はこの世代で打ち止めにすべきだ。

(ノンフィクションライター 窪田順生)