日本人は「合わせ技」で
勝ちにいく

為末 世界の人たちとの競争という意味でいうと、日本人らしくあるというのも、大きな差別化だと思いました。完全に向こうの競争に乗っかってしまうと、勝つのはより難しくなるように思います。

村上 おっしゃる通りです。日本企業から30代で外資系企業に転職し、5年くらいして米国本社に異動になりました。そこからさらに4、5年たって、「グリーンカード、つまり永住権を取ってあげるから、そのまま本社勤めしなさい」と言われたんですね。それを私、断りました。
  なぜかというと、当時40歳前後だったと思いますが、その歳でMBAを持っていない。英語はまだ丁々発止してやり合えないレベルで、いまだバイスプレジデントになっていない。となると、もうこのまま本社で戦い抜くというのが、勝てる戦場じゃないなと。日本とアメリカのブリッジみたいな役割のほうが、より貢献できると考え、そういう選び方をしたわけです。

田村 お話を伺っていると、「差別化」のカギは一つの長けた能力というよりも、何か日本人らしさも含めた「合わせ技」が有効じゃないかという気がしてきました。

為末 ふと思い出したのですが、僕がハードルを選んだときって、足はけっこう速かったんです。でもトップクラスの争いになると、最後にモンスターみたいなのが出てくるんです。当時の僕にとっては末續慎吾(北京オリンピック男子4×100mリレー銅メダリスト)がそうでした。どうあがいてもモンスターには太刀打ちできない。そこでハードルにシフトしたんです。
  さきほど、ハードルには足の速さ以外に空中感覚もいると言いましたが、僕は幼稚園の頃、体操教室に通っていたんです。バイリンガルの耳や絶対音感などに近いのかもしれませんが、空中感覚はある年齢のうちにやっておかないと身につかないんだそうです。おかげで、僕はジャンプして空中にいるときにも、ハードルとの距離感がすごくわかる。