相手は、今、どんな状況?

「夜の番組だからゆったり落ち着いた感じで話そうか」

「平日の朝、出勤前や出勤中に聞いている人が多いから、明るくさわやかなトーンで」

 新しく番組を立ち上げるとき、プロデューサーやディレクターと話し合い、「こんな感じの声でいきましょう」と声のイメージを共有します。番組によって声のトーンや話し方を変えるのは、ラジオDJにとって、最適なギアに入れ替えるようなこと。

ラジオ写真:著者提供

 ラジオは「ながら聞き」している人が多く、生活に密着したメディアです。ですから、「リスナーはどんな状況で聞いてくれているのかな?」と想像し、そこから“相手”に合わせて「声を着替える」ということをしています。

 例えば、以前に担当していたときのJ-WAVE『GROOVE LINE』は平日16時半から20時の3時間半に及ぶ帯番組。そこで私が意識していたのは、「テンポよく、でもトゲトゲしくならず、やわらかく話す」。

 パートナーのピストン西沢さんの自由奔放な話を、番組の進行上切り上げなきゃいけないときも、「ですよね、では次に行きますよ~」と言うべきことはきっぱり伝えながら、あくまでも笑顔の声で話題を区切ってみたり。

 夕方は多くの人が気ぜわしくバタバタする時間帯です。日中仕事をしている人なら「退社時刻までに、ここまでは終わらせたい」と追い込みをかける頃ですし、家事ならば買い物に行って、夕飯を作って、片付けをして、お風呂を沸かして……と、てんてこ舞い状態。

 そんなときラジオから聞こえてくる声が、あまりにもスローテンポだと、「ああ、今の気持ちとズレすぎ!」とまどろっこしく感じます。それはまるで、オチをなかなか言わない漫才のような、結論をもったいぶっているお偉いさんのような。ですから、話し方はもちろん、個々のトピックも曲も短めに終えて、テンポのよい番組作りを心がけていました。

 だからといって、話し方のトーンやテンションが高すぎたり、テンポが速すぎると、ただでさえ忙しい中、せっつかれているように感じる人もいます。声はあくまでもやさしく、かつ話題は引っ張らずサッパリと切り替えていく……緩急と剛柔のバランスも大切にしました。