有休どころか、締切まであと1カ月の新規案件まで降ってきた

 Aの報告を聞いたB課長はほっとした表情を浮かべた。

「ところで、昨日の課内ミーティングで話した乙(おつ)工場の機械設計の案件だけど、午前中の管理職会議でウチの課が担当することが正式に決まったよ。それで、設計の担当を君に頼めるかな?」
「その案件の納期はいつですか?」
「営業担当の話だと、この案件はちょっと急ぎみたいで、9月末までに上げてほしいそうだ」
「はあ?」

 9月末まではあと1カ月しかないのだから、納期に間に合わせるためには平日休むことはできない。Aは心の中で呟いた。

(また有休はお流れか……。今作業中の案件を終えたら、やっと9月の上旬に休めると思ったのに。B課長はいつもそうだ。メンバーの都合も考えずに次から次へと新しい仕事を取ってきては部下に丸投げ。おかげで有休が1日も取れないどころか、月に最低2回の休日出勤は当たり前、普段は毎日9時過ぎまで残業。まったく、やってられないよ)

 B課長の指示に肩を落としたAはスーパーに行くのを諦め、有休申請書を撤回するため総務部に出向いた。

設計1課ばかり、なぜそんなに忙しい?

 Aが総務部のフロアに入ると、昼休み中で部屋には誰もいない。用事が足せないので立ち去ろうとしたところ、フロアに戻ってきたC部長に出くわした。

「おっ、A君じゃないか。何か用かね?」
「今朝、有休申請書を提出したのですが、急に仕事が入って有休が取れなくなりました。申請書を返してもらえますか?」

 C部長は書類を保管している引き出しを開けると、Aから預かった申請書を取り出して渡し、尋ねた。

「ところで、君はたしか設計1課の所属だよね?」

 Aがうなずくと、C部長は困り顔でこう言った。

「君の部署だけ、メンバー全員が今年度の有休を1日も取っていない。労働基準法の決まりで、ウチの会社の場合は9月末までに有休を最低5日取ってもらわないと困るんだけど……。みんな、そんなに仕事が忙しいの?」
「そうですね。B課長が次から次へと仕事を持ってきて、皆に割り振るので……とても有休なんか取れません」

 AはC部長に、メンバー全員が毎日の残業や休日出勤をしているせいで疲れ切っていることを愚痴った。