にもかかわらず、北朝鮮との平和の幻想に酔いしれた文在寅氏は「金正恩氏の非核化の意思は明確」として、世界中の指導者に北朝鮮に対する制裁の緩和を働きかけた。

 文在寅氏は金正恩氏にとって最大の支援者であった。しかし、金正恩氏は米国や西側が思うように制裁の緩和に動かないのを見て、文在寅氏を見捨て、韓国政権への非難のトーンをあげた。

尹錫悦大統領の
北朝鮮強硬姿勢に反発

 金正恩氏は、非核化の交渉には応じない姿勢である。北朝鮮が対話開始条件として主張しているのは「朝鮮半島の政治的・軍事的環境の変化」であり、対北朝鮮敵視政策の撤回である。北朝鮮が求めるのは米韓合同演習の中断、米国の戦略的資産の展開と拡大抑止提供中断、在韓米軍撤退などである。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、光復節(韓国の解放記念日)の演説で、「大胆な構想」を提案した。それは、北朝鮮が非核化に乗り出す場合には、単なる人道援助ではなく、食料・インフラ・医療・投資・農業など幅広く北朝鮮の経済復興に協力しようとする考えである。しかし、北朝鮮の金与正氏は「幼稚だ」「愚かさの極致だ」と拒絶した。

 その一方で尹錫悦大統領は、北朝鮮とは無意味な対話をしない、北朝鮮の挑発に対しては、前述の3軸体制で防衛する方針である。

 また、米国の「核の傘」や抑止力の強化で対抗する方針であり、ミサイルを探知する実験を行うとともに、米韓野外合同演習を再開した。

 16日には、米・ワシントンで米韓の高官級拡大抑止協議体の会議が開かれ、核の脅威に対する対応が話し合われた。

 北朝鮮は、今回の「核武力政策法」について、こうした尹錫悦政権とバイデン政権の「対北敵視政策」に対する反発だと主張するだろう。

 しかし、北朝鮮は韓国の融和姿勢を利用して核開発を継続し、開発段階を高度化してきた。韓国歴代政権が北朝鮮の核開発を事実上容認してきた結果、逆戻りできない状況を作り出し、そのことが尹錫悦政権の対北朝鮮防衛体制の強化につながったと考えるべきである。今、平和の幻想に取りつかれて、北朝鮮の核開発を放置することはできない。断固たる姿勢が不可欠である。