死者数は「兵器の能力」で決まる
多勢でも一方的に殺されてしまう可能性

 ウクライナ侵攻に関して言えば、最新の徴兵事情に関する三つ目のモヤモヤがあります。それはキルレシオ(撃墜対比撃墜比率)の話です。ちょっと血生ぐさい話になりますが、ご容赦ください。

 現代の戦争では国ごとの兵器の能力格差がどんどん広がっていて、双方の戦死者数に不均衡が生まれています。

 例えば、最新兵器でフル装備されたアメリカ軍と、一般の軍隊が遭遇するとどうなるのでしょうか。

『ブラックホークダウン』として映画にもなった1993年のモガディシュの戦闘という事件があります。アメリカの最新兵器を装備したヘリコプターがソマリアの敵軍の真っただ中に不時着することになって、双方で悲惨な戦闘が起きたのです。

 このときのアメリカの戦死者は19人だったのに対して、ソマリア側は推定で200人から500人の戦死者を出しました。倒した者と倒れた者の比率をキルレシオ(注:もともとは空軍の用語でしたが、地上戦でも使います)といって、モガディシュの戦闘では米軍から見れば1:10~25ということになります。

 ウクライナ侵攻でもキルレシオに関するいろいろな報道があります。どうやら、このキルレシオはウクライナ軍を「1」として、1:5よりも大きい様子です。ロシア軍の正式な戦死者数は公表されていないのですが、ウクライナ軍の戦死者9000人に対して、どうも5万人近くの戦死者をロシアは出しているようなのです。

 その比率の差を生んでいる最大の原因が、ウクライナに供与されている西側の兵器の能力です。本来の兵力差であれば予備役を含めて1:3で、「3」であるロシアが圧倒的に多い。しかし、キルレシオが1:5と逆転しているために、ロシアは劣勢に陥っています。

 大局的に見ても、侵攻したロシア側に鉄ついが下されているからそれでいいように思えるかもしれませんが、モヤモヤの理由はそのミクロの状況にあります。

 ここで、ロシアに住む一般市民の視点になって考えてみましょう。軍がウクライナに侵攻していることは知っていても、日常生活はわたしたち日本人と同じで、仕事や子育ての毎日です。そこに突然家族に徴兵の知らせが届くのです。

 ロシアの一般市民にとって今の戦局は、「徴兵され、法律で決められたよりも短い期間で前線に投入され、そこで兵器の能力差で一方的に殺されてしまう状況」なのです。大局の勝利の裏には常に、ミクロの悲しみが存在します。

 実は最近になってロシアの反攻が始まっています。季節が冬に変わりつつある今、ウクライナの電力インフラを攻撃することで、住民の防寒手段を奪い生活できないようにする戦略に転換したのです。皮肉なことに反攻の主力は兵士ではなく、イラン製の無人ドローン機です。

 21世紀の現代で「人を徴兵することの意味」が、だんだんおかしくなりつつあります。