世の中の状況は、まだバブルの余韻が残っていた90年代を境に、ガラリと変わってしまった。いや、実は本質は何も変わったわけではなく、解決を先延ばしにされて地域の中に埋もれてきた“この国の課題”が露見してきただけなのかもしれない。

「引きこもり」の問題も、その1つだろう。

 これだけ長期化、高年齢化した数多くの引きこもり状態の人たちを目の当たりにして、もはや社会的背景を語ることなく、いまでも「引きこもりは青少年の身に起こる思春期特有の問題」などと信じる人はいない。それなのに、この国は「子ども・若者育成」というくくりの唯一の法律のもと、いまも“本人”に向かって、実態とかけ離れた「対策」を練っている。

 1月10日に「息子の就職失敗で引きこもりになった母親」の記事を公開したところ、その日のうちから、たくさんのメールが寄せられた。そのほとんどが、同じ主婦の立場で引きこもってしまっている方々からのものである。

 そんな中から、今回紹介したいと思ったのは、一生懸命立ち直ろうと頑張っても、引きこもらざるを得ないような状況に引き戻されていく現実を象徴するような、30代の主婦A子さんの話だ。

海外暮らしに耐えられず前夫と離婚
正社員の職を探すが…

 <記事を拝読しまして、いても立ってもいられず、メールを書き始めました>

 そんな書き出しで、A子さんの文面は始まる。

 2009年、A子さんは四国のある街で、いまの夫と出会った。

 夫は、この街で就職活動した1年半の間、ハローワークを通じて538社に応募し続けたものの、ついに採用されることはなかった。

 いまは夫と四国を出て、首都圏の郊外に住むA子さんに会った。

 A子さん自身も、前の夫が赴任した海外で、引きこもり状態にあったという。

 慣れない英語。狭い日本人社会。でも、家にいれば傷つくこともない。

「刺激のない状態が、そのときは必要だったんです」

 やがて海外での生活に耐えられなくなって、前の夫と離婚し、日本に戻ってきた。