1. 絞り込まれた明快なメッセージ

 安倍総理は、今回の演説では、国民に対して、直接語りかけるように話しをしました。「自らへの誇りと自信を取り戻そうではありませんか...『強い日本』を創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です」と、国民一人一人に、自らの力で成長していこうという、絞り込まれた明快なメッセージを訴えかけました。

 これまでの総理大臣の所信表明演説では、目の前に座っている国会議員に向けてメッセージが投げかけられることが多かったように思います。しかし、安倍総理は、議員の向こうにいる国民を意識して演説を行っていました。インターネットが普及した今日では、目の前にいる第一の聴衆のみならず、その背後にいる第二の聴衆の存在も忘れてはならないのです。

2. 自らの失敗を認める潔さ

 総理は演説の冒頭で、「私は、かつて病のために職を辞し、大きな政治的挫折を経験した人間です」と自らの挫折を率直に認め、失敗の教訓を今後に活かすことを宣言しました。国政のトップに立つ総理大臣が、自らの過去の失敗を「政治的挫折」と潔く認めるには、相当な勇気が必要です。この自らの弱さを認める姿勢には、むしろ過去の失敗を乗り越えた人間としての強さを感じる人も多いのではないでしょうか。

 説得力を持つ話しの条件は、論理、感情、信頼の三つの要素がそろっていることです。誠実さを示すことは、聴衆からの信頼を勝ち取ることにつながるのです。