相続したマンションの売却で
サブリース契約解除めぐりトラブル

 もう一人サブリースで苦しんでいる方をご紹介します。

 ある地方都市にマンションを丸々5棟保有している原さん。彼は、2022年にお父さまが亡くなったことで、複数不動産を相続した方です。父が生前の2021年に、2棟売却する契約をしていました。売買契約書まで交わしたものの、収益不動産の2棟引き渡しの前に亡くなってしまいました。

 そこで父の代わりに、長男の原さんが相続人として、新しい買い主やその契約を仲介した仲介会社と引き渡しまでのやり取りをすることになったのです。

 そもそもこの2棟の売却話をまとめたのが、1人社長である不動産仲介会社の高齢の社長。彼は高齢のため、現在の宅建業者としてのルールを守っておらず、トラブルを引き起こします。その中でも最もひどかったのが、買い手にサブリースの物件であるということを説明せず、契約まで済ませてしまったことです。通常は契約時に説明すべきことであり、初歩的なミスです。

 しかし、相続したばかりの原さんは、不動産の仲介を担っていた高齢の社長から「君は素人だし、まだ若い。大丈夫、私に任せなさい」と言われたので、原さんもそれをうのみにしてしまったのです。

 この社長は「サブリースの解除条項が契約書にあるから解約できる」と踏んでいたのです。

 しかし、その後、サブリース会社から原さん宛てに内容証明郵便が送られてきて、そこには「たとえ売却を理由としても、それは正当事由ではないのでサブリースは継続であり、たとえ正当事由があっても違約金を払うもの」と書かれてありました。

 驚いた原さんは、自ら複数の弁護士に相談をしましたが、いずれの弁護士からも「借地借家法の側面で解約は難しい」と説明されてしまいました。

 以下が、そのサブリースの解除条項です。

<第○条 契約の解除>
 甲乙(筆者注:所有者とサブリース会社のこと)いずれか一方に契約続行不可能な事由がある場合に限り、3カ月の予告期間をもって相手方に通告し本契約を終了させることができる。また、正当な解約事由がない場合や即時に解約の場合は前条の保証家賃の3カ月分を相手方に支払うものとする。

 上記条文によると、解除条項があるため、一見、サブリース契約は解除が可能のように見えます。実際、不動産仲介の高齢の社長だけではなく、原さんの父親も建築当初「サブリースにすれば、何もしなくてよい」と管理会社に言われ、かつ上記契約書に書かれている通り「解約できるもの」と認識して、サブリース契約をしました。しかし、相続した人間が望まなくても、サブリースは引き継ぎとなる「止められない契約」なのです。

 この物件の買い手は、ある程度不動産投資をしている人だったため、サブリースの解除を求めました。前述のお医者さんの佐藤さんのお話でも触れた通り、本来の家賃は100だとしても、サブリース会社に20中抜きされるため、80ほどしか賃料収入が入りません。買い手としては20損するわけですので、投資家にとってサブリースの継続はメリットがありません。

 原さんのケースは最終的に、サブリース会社の社長が、上記法律を盾に原さん、仲介会社の高齢社長、さらには買い手にまで、強硬な姿勢を崩さぬまま押し通し、サブリースのまま引き渡すということで、妥協の決着となりました。