補聴器の普及が
日本で進まない理由

 それでは、難聴の予防法はなにがあるのだろうか。

「やはり、有毛細胞へのダメージを抑えるために耳を酷使しないことです。イヤホンを1時間ほど使ったら、10~15分ほどは休憩するなどですね。とはいえ、無音状態にいる必要はなく、適切な音量のテレビなど、うるさいと感じない程度の音があっても問題ありません。難聴のリスクを下げるには、うるさい環境に常にいないことが重要です」

 一般的には、中等度以上の難聴の場合は補聴器の装着が勧められる。しかし、日本での補聴器の普及率は世界的に見て非常に低い。日本での難聴者のうち補聴器を装着しているのは15.2%だが、イギリスは52.8%、ドイツは41.1%、韓国は37%など、いずれも日本の2倍以上の装着率だ(Japan Track2022から)。

「欧米ではオーディオロジストという聴覚専門の国家資格があり、彼らの指導のもと、補聴器の選定や使用などを行います。一方、日本ではそうした専門家がおらず、個人でどこでも買えてしまいます。じつは補聴器は着けてすぐに聞こえるわけではなく、抜けた有毛細胞の役割を脳が想像して徐々に言葉が聞こえるようになるのです。つまり、耳のリハビリ期間が必要で、それは3カ月から半年ほどかかります。専門家であれば、そのようなことを説明してくれますが、日本ではまだまだそのような仕組みが広がっておりません。そのため、『着けても聞こえ方が変わらない』と使わなくなる方も少なからずいて、それが補聴器は意味がないというイメージにもつながっています」

 一方、言語や文化面でも、欧米とは補聴器の必要性に違いがあるようだ。

「難聴は子音から聞こえなくなりますが、英語やフランス語など欧米圏の言語は、日本語と比べて、子音の重要性が非常に高いです。そのため、日本人よりも会話の際の不自由が大きくなるのです。また、欧米はパーティーなど大人数での会合が文化的に多いので、補聴器の必要性が高くなります。一方、日本人は性格的に、会話の内容がわからなくても、なんとなく聞こえたふりをして笑ってスルーしがちで、相手もいちいちそれを指摘しません。実際、難聴は別名『ほほ笑みの障害』とも言われます。ただ、文化や言語の違いはあれど、聞き取りやすくなることは間違いありませんので、難聴を感じている方は補聴器の装着をおすすめします」

 若年層にとって補聴器は、「かっこよく使い勝手がいい」というイメージではないだろう。しかし、近年はGNヒアリングなどのメーカーを筆頭に、スマホやタブレットとも連携でき、通話や音楽、動画を楽しめるようなスマート補聴器も登場している。また、デザイン面においてもスタイリッシュな製品が存在し、従来のイメージを覆すような補聴器が増えているのだ。

 また、「耳年齢チェック」といったモスキート音で耳年齢をチェックできるアプリもあるため、気になる人は試してみてもいいかもしれない。

 難聴になれば、おのずと仕事のパフォーマンスも落ちるだろう。今から自らの耳年齢をチェックし、予防と対策をしていこう。

監修/オトクリニック東京 小川郁院長