タナカさん夫婦は、この勧めを前向きに捉え、インターネットなどで情報収集。やがて、この手のケースに強みを持つクリニックを見つけ、受診を申し込む。だが今、こうした申し込みは多いのか、初診まで3カ月待てといわれた。

家族全員「発達障害」
息子・娘はASDとADHD

 3カ月後、夫婦は娘と息子を連れて家族全員でクリニックへと受診に赴いた。息子は「こういう機会なので」と思って連れて行ったのである。その後5カ月にわたって知能検査なども行い、娘と息子にはASDとADHDという診断結果が出た。妻もまた同じ。夫はADHDだけ診断がついた。

「確かに私も生きづらさを抱えていたというか、学生時代、それこそ小中高大と、ずっと浮いていました。いじめられたこともあります。だから会社勤めも続かず、自営業をしているのもそうした理由からなのです」

 タナカさんは大学卒業後、一度地元の専門商社に入社したものの、周囲の人間関係に気を配ることに、本人曰く「ただただ疲れた」ことから、あまり人と接することのない自営業への転身を決意。学び直して歯科技工士となり開業。結婚して今に至る。

「妻とも気が合うのは、お互い人に気を遣い過ぎるところです。まさかそれが障害だったとは……。でも、これが原因だとわかれば、あとは対策を練るだけです。今、私たち夫婦にとって大事なのは、2人の子どもたちをどう育て上げるか、そこですから」

 生きづらさを抱えていた妻もまた、大学は出たものの夫と同じく就職で大きく躓いた。会社訪問時、採用面接時にしなければならない「御社が第一志望です」「御社から内定を頂いたならその時点で就職活動を終えます」といった就活トークがどうしてもできない。

 就活といえば、誰しも身に纏うのがリクルートスーツだ。このリクルートスーツが自らの個性を打ち壊されるようで辛く、とても着られない。とりわけ襟のある服は無理だ。これも感覚過敏という特性ゆえだという

 何でも本音で勝負。そもそも決まった時間に出社して、周囲に合わせて仕事をして、退勤する――そんなルーティンに耐えられないのだ。

「1日、2日なら、そうした会社員としてのルーティンもこなせると思うのです。でも3日となると、もう無理。だから折角就職できた会社も、1週間で退職しました」

 こう語るタナカさんの妻は、関西を代表する国公立大学の卒業生だ。自らの経験から「大学名で就職はできても、生きづらさを抱えていると(仕事が)続かない」ことは、おそらく昔も今も変わらないと考えた。