虫歯を「治療する」から「予防する」場所へ
歯医者のボジションが変わった

 結果的に、歯科医がキシリトールガムを売ることで、歯科医院への来院頻度が確実に増えることになりました。平均3~5年に1回だった患者が、短い間隔で歯の定期健診に来院するようになったのです。つまり、予防歯科という新しいアプローチで虫歯のリスクを可視化して新たな来院動機を創りだし、治療というサービスの中身そのものは基本的に変えずに、定期健診という新しいサービスを加えることで、今まで歯科医に足を運ばなかった人々が、続々と訪れるようになったというわけです。

 定期的に歯科医院を訪れるようになると、「かかりつけ医」という感覚になるため、家族や友人など新しい患者を連れてくる確率が高くなります。さらに、検診なら歯科衛生士でも対応できるため、歯科医以外のスタッフも収益を上げられるようになったのです。

 こうして「虫歯を減らすと患者が増えて収益が上がる」という新しいビジネスモデルが誕生しました。歯科医院の場合、ビジネスモデルを治療型から予防型に転換することで、「虫歯を治療してもらう場所」から「虫歯にならないために行く場所」へとポジションが変わり、そこに新しい健康維持というパーパスが生まれました。つまり、患者と歯科医院の関係性が大きく変わったということです。これこそが、リデザインするということなのです。

 皆さんの中でも、昔は虫歯にならないと歯医者に行かなかったのに、最近は歯が痛くなくても、歯の検査やクリーニングなどで訪れるようになったという方がいるのではないでしょうか。

「一人ひとりのウェルビーイングを実現するために関係性をリデザインする」という視点に立つと、あらゆる可能性が広がっていきます。今後ますます、自社の商品、サービスを通じてウェルビーイングを提供する企業が増えてくる予測されます。それに伴い、私たちも日々の暮らしの中で、ウェルビーイングを意識する機会が増えるはずです。

(インテグレート代表取締役CEO 藤田康人)