なでしこに敗れた北朝鮮監督「号泣会見」の裏事情、引き金となった韓国人記者の“禁句”とは?Photo:Hiroki Watanabe/gettyimages

なでしこジャパンが2月28日、死闘の末に北朝鮮代表を2-1で撃破。今夏のパリ五輪出場を決めた。一方、3大会ぶりの五輪出場を逃した北朝鮮代表のリ・ユイル監督は、試合後の記者会見で嗚咽しながら涙を流し、日本でも大きく報じられた。リ監督の涙の裏には、単なる「敗戦の悔しさ」だけではない、やむを得ない事情があったと見受けられる。その背景にある「韓国メディアとのトラブル」を、現場に立ち会った筆者がレポートする。(ノンフィクションライター 藤江直人)

北朝鮮女子代表の監督が
記者会見で号泣した背景

 サッカーの女子日本代表(なでしこジャパン)が、2月28日のアジア最終予選で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の女子代表チームに勝利し、パリ五輪出場を決めた。試合後の会見では、北朝鮮代表のリ・ユイル監督が号泣しながら国民に謝罪し、日本でもニュースになった。

 インターネット上では、リ監督の涙に対して「何か処分を受けるからだろう」「収容所に送られないか心配だ」などと、北朝鮮の政情と絡めて揶揄(やゆ)する声が散見された。だが、ことはそう単純ではない。リ監督が涙を流すまでには、韓国メディアと対立するなど複雑な経緯があった。会見を現場で取材した筆者が、その中身をひもといていきたい。

 最初のきっかけとなったのは、なでしこジャパンと北朝鮮代表の試合前日(2月27日)、決戦の舞台である東京・国立競技場で行われた公式会見での一幕だった。

 質疑応答で2番目に指名された韓国のテレビ局「チャンネルA」の女性記者による質問を、ひな壇の中央に座っていた北朝鮮のリ監督が突如として遮った。

 代表チームの監督が、報道陣からの質問を中断させるのは異例と言っていい。しかも39歳の青年指揮官は、それまでは声をあげて笑うなど陽気な一面を見せていた。ところが、そこから一転。女性記者の質問を受けた途端、リ監督は表情に不快感をにじませながらこんな言葉を響かせた。

「申し訳ないが、国号を正確に呼んでほしい」

 女性記者とリ監督のやり取りは、日本語に翻訳されないまま続けられた。