確実に存在するモノづくり復活の芽
「良質なグレーゾーン」を活用せよ

 ここまでずいぶんと悲観的なことを書いてきた。しかし、筆者は日本のモノづくり産業には、復活の芽が確実にあると信じている。

 日本企業は世界にない新しい価値を生み出せる能力を持っている。エレクトロニクスや自動車などの製造業に関わる先端技術だけではない。数多くのノーベル賞受賞者を輩出している科学や医学における独創的な研究はもちろんのこと、デザインや建築などの芸術的分野、そしてアニメやゲームなどのサブカルチャーに至る幅広い分野で独創的なアイデアやストーリーが評価されている。

 しかし、残念なのはこのような独創的な取り組みが有機的に連携し、新しい価値創造につながっていないことだ。例えば、秋葉原という場所はエレクトロニクス関係のショップが立ち並ぶ街だが、同時にアニメやゲームなどのサブカルチャーの聖地でもある。

 この二つの世界を有機的に連携させると、例えばアニメやゲームの世界に登場する近未来的な乗り物、ロボット、端末などを実際に試作して使ってみるといった取り組みが起きるはずだ。両方の世界の専門家でもない筆者が少し考えただけでも、いくつかのアイデアが思い浮かぶ。可能性はいくらでもありそうだ。ところが、実際にはそんなことは起きていないし、アイデアさえも生まれていない。

 大企業の中にはもちろんのこと、中小企業やベンチャーにも、世界をあっと驚かせるアイデア、デザイン、技術、ノウハウを有する公私混同人材が豊富に存在する。筆者自身がそういう人材と数多く巡り会ってきたからだ。

 彼らの多くは、一人や少人数で何とか頑張ろうとしている。しかし、スピード感を持って優れた商品アイデアや技術を普及させるには、彼らだけの力ではどうにもならない。そこで必要となるのが大企業の力なのだが、組織的うつ病にかかっている大企業では彼らの取り組みは見向きもされない。そのため、どんなに世界が驚く可能性があっても、彼らの描く世界観は世界に発信できないままに終わってしまう。

 いま、先進国ではモノやサービスが「必要」であることから消費を行う「必要性消費」から、心理的に誘発されて消費を行う「共感消費」が増えている。あらゆる市場において供給過剰が進む中、商品やサービスの提供者のポリシーに感銘して消費を行う、「共感消費」へのシフトは更に進んでいくと考えている。

 そうなれば、「思い」や「熱意」が伝わってくる公私混同型の商品やサービスが圧倒的に優位性を持つだろう。

 組織的うつ病から脱却し、公私混同人材をフル活用して、世界をあっと驚かせる商品やサービスを提案することが、モノづくり産業復活のきっかけとなるのではないか。

 そのためには、新しいアイデアが生まれやすいよう部門、組織、業界を越えた交流を推奨する、勤務時間の二割を業務と無関係な活動に使うことを許可する、社内外を問わず、誰も思いつかなかったような独創的なアイデアがあればどんどんやらせてみる、若者やベンチャー・中小企業の持つエネルギーを積極的に活かすために予算を確保するなど、経営者の決断一つでいくらでも可能性は広がる。

 組織や業界の風通しを良くするとともに、新しい商品やサービスが生まれやすい「良質なグレーゾーン」を作る活動を全国的に展開していくべきではないだろうか。それが日本のあらゆるところで起き始めれば、日本は必ずかつてのように世界から注目されるに違いない。