一方で、決断はやみくもにすればいいものではないですし、スピードも大切です。「Make a decision in a second」というのは、瞬時に判断するということ、「瞬断」の重要性を強調しています。

 では、正確にスピーディーに瞬断するにはどうすればいいのでしょうか。私がこれまで瞬断できるグローバルリーダーたちを目にして実感したのは、圧倒的に情報を持っているということでした。それも、「世界の情報」を持っているということです。

 日本人はどれだけ情報通の人でも、世界の情報に疎い人が多いのも事実です。狭い国内の情報だけでは回せない時代になった今、世界中のマーケットの推移、市場調査、競合他社の動向、従業員からの報告、業界内の噂などを握れる人こそが強い時代になったと言えます。中途半端な情報だけでは選択肢が増えて迷うだけですが、圧倒的な情報を手にしたとき、決断のスピードと正確性は格段に上がります。

 アップルの現CEOのティム・クックは、当時から社内でもデータバンクとして有名でしたが、私も彼の瞬断を何度も目にしてきました。私はアイデア体質で、多くのプロジェクトに対していろいろなアイデアを出してきましたが、判断する材料が日本に偏っていたことは事実です。

 一方、ティム・クックは、「こういうPRはどうだろうか」という提案に対しても、「それはブラジルで以前やって、あまりうまくいかなかったよ。関連情報を後で送っておく」と一瞬で答えます。

「店頭をこうしたい、ここに人をつけたい」という提言にも、「それはグッドアイデアだ。オーストラリアに○○という奴がいて、ものすごく詳しい情報を持っている。彼から詳しく聞いてくれ」とすべて即答です。

 実はティム・クックは元IBMの社員で、私と同期で同い年でもあるのですが、彼が手にしている情報と私が手にしている情報では、日本と世界という広さにおいてまったく異なっていたのです。

 これからの時代は、アイデアに価値があるかどうか、それが良いか悪いかを判断するのに、世界の情報を握ったものが圧倒的に強いということなのです。これはグローバル企業の問題だけでなく、日本だけでは生き残れない時代に必ず必要となってくるものでしょう。

 いかに素早く正確に判断するか、そのためには、今から世界の情報を集めておくことをお勧めします。世界の情報を知らない日本人が多いなか、瞬断できる大きな武器になるはずです。(第8回に続く)

次回は5月10日更新予定です。


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山元賢治(やまもと・けんじ)
1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。専務として営業・マーケティング・開発にわたる総勢1600人の責任者となり、BtoBの世界の巨人、ラリー・エリソンと仕事をする。2004年にスティーブ・ジョブズと出会い、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任。iPodビジネスの立ち上げからiPhoneを市場に送り出すまで関わり、アップルの復活に貢献。
現在(株)コミュニカ代表取締役、(株)ヴェロチタの取締役会長を兼任。また、(株)Plan・Do・See、(株)エスキュービズム、(株)リザーブリンク、(株)Gengo、(株)F.A.N、(株)マジックハット、グローバル・ブレイン(株)の顧問を務める。その他、私塾「山元塾」を開き、21世紀の坂本龍馬を生み出すべく、多くの若者へのアドバイスと講演活動を行っている。
著書に『ハイタッチ』『外資で結果を出せる人 出せない人』(共に日本経済新聞出版社)、共著に『世界でたたかう英語』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。