この小説を書くことで、息子に近づきたかった

佐々木 僕の心にズバッと刺さったのは、後半によく出てくる「自然のように受け止めろ、抱きしめろ」という言葉でした。僕自身、2ヵ月前に本を出して、それが急に売れてしまって、多くはとても好意的な反応をいただいているのですが、意外な反応をいただくこともあります。

 僕も何度もそういうことがありました。でも今思うのは、それも読者に必要とされているからこそなんだ、ということ。本が売れれば売れるほど、佐々木さんにいちゃもんをつけたり、ある種の嫉妬をする人もいるでしょう。僕は、今ほど嫉妬が強い時代はないんじゃないかと思っているくらいですから。

 今後、この『伝え方が9割』がさらに売れていくと、反動もいろいろあると思います。僕は60歳をすぎたから、ある程度バランスがとれるようになりましたが、佐々木さんはまだ40歳?40は「不惑」なんていわれるけれど、迷いまくっている世代でしょう。

 読者というのは、いろいろ懐疑的な読み方をするものです。でも、やっぱり売れるということは、その本に何かがあるから。どんなに戦略的に動員をかけても、売れない本はやっぱり売れないんですよ。

 佐々木さん、初めてのことかもしれないけど、攻撃されるのを気にする必要はないと思います。20万部ということは最低20万人、ひとりの人が10人はフェイストゥフェイスの関係を持っているだろうから、場合によっては数十万人がこの本を読んで、読んだ人を中心に何かを話しているのは間違いありません。

 これだけの人に、自分は必要とされている。その中には、佐々木さんの本を読んだから、自閉的状況から立ち直れたという人も、きっといるはず。僕もサイン会で握手を求められたときに、「今まで精神科に通っていました。でも先生の本を読んで、心の中に少し余裕ができました」と言われて感激したことがありますから。

佐々木 姜さんの小説が、もちろん僕に向けられたものではないというのはわかっているのですが、「いろんなことはある、それを含めて全部抱きしめてみろ」というメッセージをいただいた気がしました。

 それはうれしいですね。3年前に『母ーーオモニ』という小説を出版したから、僕が世代の高い読者をイメージして小説を書いていると思われる方も多いでしょう。でも僕は、この本を書くことで、息子に近づきたかった。生きていれば今、30歳くらいになるかな。だから、できれば佐々木さんのように、悩んだり迷っている世代の人たちに読んでもらいたいと思っています。

 僕はずっとアカデミズムの世界にいて、テレビに出始めたのは40代のときでした。40歳って、やっと人生のエンジンがかかったくらい。佐々木さんには、これからもっといろいろな発言をしていってもらいたいですね。

「心」という小説を書くことで、<br />亡くなった息子に近づきたかった<br />【姜尚中×佐々木圭一】(後編)

佐々木 ありがとうございます。先日、初めてテレビに出たんですが、すごく緊張しましたし、完全に自分が自分じゃない状態で、「もういなくなりたい!」って思いました。帰りの新幹線でも、ずっと独り言を言っていたくらい(笑)。

 僕だってそうだったもの(笑)。収録が終わったあとすぐトイレに駆け込んで、穴があったらどこかに入りたかった。佐々木さん、そのときの気持ちをどうかこれからも忘れずに。陰ながら応援しています。

次回は5月31日更新予定です。

「伝え方が9割」バックナンバー

第1回 無理めな、あの人に デートOKをもらうコトバとは??

第2回 チカン多発地域!ある看板をつけたら チカンが発生しなくなった、そのコトバとは??

第3回 困った自転車放置!ある看板をつけたら放置がなくなる、そのコトバとは?

第4回 子どもが言っても勉強しない!言い方を変えたら、勉強をはじめたそのコトバとは?

第5回 いままで伝えることが苦手だった人のほうが、この方法で劇的に人生が変わる【本田直之×佐々木圭一】(前編)

第6回 伝える技術って、相手のことを想像する技術でもあるんです。【本田直之×佐々木圭一】(後編)

第7回 「相手のことを想像して伝える」それが、この本に書いてあるすべて【姜尚中×佐々木圭一】(前編)


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◆佐々木圭一『伝え方が9割』

入社当時ダメダメ社員だった著者が、なぜヒット連発のコピーライターになれたのか。本書には、心を揺さぶる「伝え方の技術」が書かれてある。膨大な量の名作のコトバを研究し、「共通のルールがある」「感動的な言葉は、つくることができる」ことを確信。この本で学べば、あなたの言葉が一瞬で強くなり人生が変わる。

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姜尚中(カン サンジュン)『

「心」という小説を書くことで、<br />亡くなった息子に近づきたかった<br />【姜尚中×佐々木圭一】(後編)価格:\1,260円(税込)
四六判 288ページ
ISBN:978-4-08-781523-8
刊行:集英社

痛切なる告白の瞬間!
先生と学生の心の交流。『母—オモニ』から三年ぶりの長編小説

君に私の息子の最後の言葉を贈りたいのです。
親友を失った青年と、ある秘密を抱えた先生の間で交わされたメールを軸に織り成す、喪失と再生の物語。あの『悩む力』の著者が、苦難の時代を生きる若者たちに真剣に向き合った、注目の長編小説。

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