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稀代の教育改革者は、学びを楽しむ達人だった――サルマン・カーン カーンアカデミー創設者に聞く

瀧口範子 [ジャーナリスト]
2013年7月10日
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発展途上国の子どもと
ビル・ゲイツの子どもが同じ教材で学ぶ

――カーンアカデミーのオンライン教材は、世界中で利用されています。発展途上国や貧困地域でも同じように利用できるのでしょうか。

カーン 完全にとは言えないかもしれませんが、誰にとっても同じように使えるものとして作っています。ただ、同じシステムを違った方法で使うということはあるでしょう。米国国内でも、学校にあるコンピュータの数、生徒のレベル、親の学歴などによって、学校区ごとに環境は異なります。

 また、インドやアフリカも、農村部になると子どもたちは何も持っていないので、そこでの利用方法は違ってくるでしょう。たとえばモンゴルでは、孤児院で使われているケースがあります。コンピュータ・ラボがあって、そこで利用する。ただ、他に教育がないので、これが主要な教育手段になっています。

 インドならば、村にコンピュータ・ラボ、あるいは携帯電話のラボでも構わない、そういう場所を作って、アクセスして設問を解き、フィードバックをもらうということもできるでしょう。子どもたちの親が、仕事が終わった後にやってきて利用するということも考えられます。

 要は、今まで何らかの製品が途上国向けに寄付される場合、先進国と同じものは高くつくので、安物バージョンが配られたりしました。けれどもカーンアカデミーならば、ビル・ゲイツの子どもたちが使っている同じ教材に、モンゴルの孤児院の子どもたちもアクセスできるんです。すべて同じです。いずれふたつを結びつけたい。世界がひとつの教室のようになって、お互いを教え合う。それが本当の夢です。

――ところで、ビデオ教材で聞こえるあなたの声は、とても楽しそうです。どうやったら、あんなに楽しそうに教えられるのでしょうか。

カーン 単純なことです。これから誰かに教えようというのに、もし自分自身がその内容を楽しめなければ、なぜ相手が聞こうとするでしょうか。そもそも、ここで扱っている科目は、根本的に面白く興味深いものばかりです。そう思わなければビデオは作らなかったでしょう。

 それに、面白くないと感じることが、私にはほとんどありません。何を見ても、そこに興味や楽しさを見つけることができる。また、ストレスが多かった日なら、ビデオを作る前に強制的に笑い声を上げたりします。こういうことは伝染性があるので、機嫌が悪いと聞く相手にそのように伝わり、笑っていると相手にも楽しく感じられる。難しい話ではありません。

理想的な未来社会は
「スター・トレック」の世界

――それにしても、数学から物理、歴史、宇宙学、マクロ経済まで、なぜそんなに幅広い知識をお持ちなのですか。

カーン 私は、学ぶことが好きなんです。よく友人に言っていました。もし「万物学」の博士号があるのならば、私が取りたいのはそれだ、とね。ひとつのことだけでなく、たくさんのことを知りたい。

 実は、それこそが、私のかつての職業である投資アナリストで叶えていたことです。原油、ソフトウェア、農業と知識を深め、それらがどうつながっているのかを理解することができましたから。すべての専門家とは言いませんが、一度何かを深く理解するという経験をすると、その充足感を他のことでも味わいたくなるのです。

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瀧口範子
[ジャーナリスト]

シリコンバレー在住。著書に『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』(共にTOTO出版)。7月に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか?世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』(プレジデント)を刊行。

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