凋落する家電業界との対比で、近年は勝ち組とされてきた重電業界。代表格である日立製作所、東芝、三菱重工業の3社がそろって、10月1日に大規模な体制改革に打って出る。なぜ今なのか。
「三菱重工と日立の10月1日付の人事を照らし合わせれば新会社の経営陣が見えてくる」──。
三菱重工業と日立製作所が10カ月前にぶち上げた火力発電システムの事業統合。当時は、世紀の統合ともてはやされたが、時がたつにつれその熱気は冷めつつある。
ところが、2014年1月の合弁会社設立をめぐって、トップ人事がひそかに注目を集め始めた。内情に詳しい複数の関係者は、それを解くカギが両社が発表済みの10月1日付の人事にあると明かす。
週刊ダイヤモンド取材で浮かび上がったのは、サプライズともいえるトップの人選である。事業統合の主導権を握ってきた三菱重工の西澤隆人常務が社長に、副社長には日立の藤谷康男常務が就く見通しだ。
特に驚きなのは、西澤氏の起用だ。西澤氏は、三菱重工の火力事業を担ってきた原動機事業本部の出身ではなく、化学プラントや交通システムなどの事業を担当。エンジニアリング本部の初代本部長に就任し、発電プラントの関連機器やシステムで培ったEPC(設計・調達・建設)の技術、ノウハウを全社で共有してきた人物だ。
それが、なぜ社長に就くのか。伏線は、三菱重工の人事にある。西澤氏は火力発電システム事業部長に就任することが決まっており、これが火力合弁会社の社長就任含みだとみられる。当然、畑違いのトップを迎えることに、社内の利益の5割以上を稼ぎ出す名門、原動機畑の幹部らは心中穏やかではない。「原動機いじめだ」という恨み節も聞こえるほどだ。
ただでさえ巨大企業同士のエゴがぶつかり合うところに、足元から揺れているようでは融合などおぼつかない。それでもサプライズを選んだのは、EPC重視のメッセージと、“聖域”に踏み込むショック療法によって組織を活性化させようという狙いが見える。
もっとも、「実際は原動機の本流を歩んできた前川(篤)副社長が、三菱重工本社からコントロールする。畑違いのトップを置くのは、三菱重工による日立への支配感の緩和だ」(ある重電幹部)と、冷ややかな見方があるのも事実だ。