小泉純一郎元首相は、10月1日、名古屋での講演であらためて日本が脱原発の方向に進むべきだと強調した。
彼が元首相であること、自民党員であること、そして未だ突出した国民的人気の持ち主であることによって、この発言は段違いの大きな衝撃をもたらしている。
特に、安倍晋三首相にとっては実に悩み深い。世間は安倍首相を小泉元首相の弟子と受けとっている。小泉元首相に引き立てられて最高指導者になったとも見られている。だからこの発言を無視したり、軽視したりして済む立場ではない。
安倍政権の原発政策は、基本的には民主党政権の「何となく再稼働」路線を踏襲してきた。民主党政権は、脱原発を唱えながら再稼働を容認するという邪道を選んだが、この前政権の道を安倍政権は当然のように進みながら、次第に原発事故以前の路線に戻りつつあるように見える。
今回の小泉発言は、この「何となく再稼働」路線に大きな転換を迫るものだ。
折から東京オリンピックの開催決定によって、日本の原発政策は今まで以上に国際的関心事となり、少なくとも開催までの7年間は、世界が常に日本の原発の動向を監視することになった。言わば、日本の原発政策は特別厳しい国際監視の対象となったのである。
一体、日本の既定の原発政策はこの監視に耐えられるのだろうか。とても耐えられるとは思えない。
私はオリンピック開催決定による内外の世論の変動と今回の小泉発言によって、今後の日本の原発政策は振り出しに戻ったと認識している。