危機から脱した先にも、幾度の困難が待ち受けていました。誰もやったことのない、慣習や伝統をある意味壊すことも選択し、その中ではお叱りや批判の声もいただきます。それでもなお、なぜ私たちは前に進むのか。

 それはひとえに「ああ、美味しい」のひと言を頂くためです。山奥の小さな酒蔵にとって、これだけは譲れない唯一の財産が、そのひと言なのです。

「変わることを恐れない」という伝統

 だから、踏み出した道をどんどん進み、より大きな市場に出て行くほかに手はないと確信しています。「変えるべきでない伝統」は何が何でも守り抜き、一方で「大事なものを守り抜くために変わること」を恐れない。それが旭酒造の伝統です。パリ出店を控え、どんな世界が開けていくのか、楽しみで仕方ありません。

 酒造りは本当に面白い。私には、酒蔵以外に取り柄はありません。

 ただ一本道をひた走ってきたなかで、折に触れて感じたことや考えたことを、本連載でいくつかご紹介していきます。日本酒業界に限らず、海外をめざす地方企業の同志の皆さんや、広くメーカーの皆さん、日本酒ファンの皆さんなどに、小さな酒蔵の奮闘を、笑ったり怒ったり、時には共感していただいたりしながらお読みくだされば幸甚です。


<新刊書籍のご案内>

変えるべきでない伝統を守り抜き<br />大事なものを守るための変化は恐れない

『 逆境経営 』

カネなし!技術なし!市場なし!
山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法

つぶれかけた酒蔵を立て直し、世界約20ヵ国に展開するに至った、熱いスピリットと“七転び八起き”な合理的思考法をまとめた1冊です。カネも技術も市場も持たない山奥の小さな酒蔵が自己変革してきた間の「ピンチをチャンスに」変える発想は、酒造り以外にも活きるエッセンスが満載です!

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