「まさか誇大広告で刑事告発とは……」。ある大手製薬会社の幹部は意外な顔をする。
ノバルティス ファーマの関係者が降圧剤「ディオバン」の不正な論文データに関与していた問題で、厚生労働省は、広告宣伝に用いたことが薬事法の禁止する虚偽・誇大広告に当たる疑いがあるとして、会社と当時の広告担当者を東京地検に刑事告発した。
Photo by Takeshi Yamamoto
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業界内では、厚労省の“奇策”に驚きの声が広がっている。というのも、過去、国が誇大広告で企業を刑事告発した例はない。しかも、「薬事法違反で、天下の検察が捜査というのも非常に違和感がある」(前出の製薬会社幹部)。
厚労省は、この問題の真相究明のため調査委員会を設置、ノバルティスや論文を作成した大学を調査してきた。だが、委員会には強制力がなく、データ操作を行った人物の特定などには至っていない。
そもそも現在の日本には臨床研究を規制する法律がない。そこで、薬事法違反という“苦肉の策”を繰り出して、最強の捜査機関である検察にバトンを託したといえる。
実は、当初は、「内々に贈収賄での事件化を検討していた」とある捜査関係者は声を潜める。ノバルティスは、論文作成した大学の教授らに多額の奨学寄付金などの資金提供を行っていたため、立件可能ではないかと踏んでいたのだ。
贈収賄ならインパクトが大きい上に、ノバルティスだけでなく、資金を受け取った大学側も告発対象となる。しかし、これには重大な欠陥があった。贈収賄は、みなし公務員である京都府立医科大学や千葉大学など国公立大学ならば適用できる可能性があるが、東京慈恵会医科大学をはじめ私立大学への適用はまず不可能だからだ。
今回の不正論文問題では、最も影響力が大きかったのが慈恵医大のデータだ。肝心の慈恵医大が抜けては意味がない。結局、薬事法違反の容疑に落ち着いた格好だ。