昨年12月上旬、シャープの液晶事業の一大拠点である亀山第2工場で、ある大口顧客向けの生産が秘密裏に始まっていた。

 工場内の生産ラインに仕込まれたのは、シャープが世界で初めて量産化に成功したとされる省エネルギー性の高い「IGZO」(イグゾー)と呼ばれる液晶パネルだ。畳3枚分もある大きなガラスが、600個以上に分断され、一つひとつがスマートフォン向けの液晶パネルとして出荷されていく。

 振り返れば、長い道のりだった。2011年6月、赤字のテレビ用液晶から、イグゾーを使った中小型液晶に主軸を切り替えると宣言したのが始まり。赤字下でもテレビCMに広告費をつぎ込み、イグゾーを躍起になって押し出したが、いつになっても収益面で貢献することはなかった。

 しかし昨年秋以降、ようやく薄日が差し込んできた。まずは米アップルのタブレット「iPad mini」の受注により生産量が向上。そこに加えて、冒頭のプロジェクトが始まったのだ。

 「スマートフォンにして月産100万~200万台分で、年間1000万台を優に超える。これまでとは桁が一つ、二つ違う受注規模だ」(業界関係者)

 シャープの最先端の液晶を一挙に買い込んだのは誰なのか。

 名前が挙がっているのが、中国の新興スマートフォンメーカー、北京小米科技(シャオミ)だ。

日本参入の可能性も

シャープの切り札を大量購入 <br />“中国のジョブズ”の野望シャオミを率いる雷CEO。端末で利益を稼ぐつもりはないと公言し、高級機を破格で販売する
Photo:AFP=時事

 同社は10年に創業したベンチャー企業。創業者の雷軍(レイ・ジュン)氏は“中国のジョブズ”の異名を取り、世界的にも注目を浴びている存在だ。人気商品であるスマートフォン「Mi3」は、アップルのiPhoneと同クラスの最先端部品と機能を備えながらも、店頭価格は半額以下の1999元(約3万4000円)。若者を中心に熱い支持を集めており、すでに中国では本家アップルの市場シェアを追い越す勢いだ。