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野口悠紀雄 2040年「超高齢化日本」への提言

年金財政と所得代替率という相反する目標
――両者のバランスを図るマクロ経済スライド率は?

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第7回】 2014年7月24日
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 これまで、厚生年金財政のシミュレーション計算を行ない、マクロ経済変数の違いで年金財政にどのような差が生じるかを分析してきた。

 今回は、政策措置について分析する。保険料率や国庫負担率を所与とすれば、政策は給付にかかわるものだ。これには、マクロ経済スライドと年金支給開始年齢の引き上げがある。今回は、前者について分析する。

マクロ経済スライドが
年金財政に与える効果は大きい

 現在の制度では、給付額を毎年0.9%減額するマクロ経済スライドが考えられている。これを物価動向いかんにかかわらず実施すると、厚生年金財政はどのようになるだろうか?

 結果は、図表1に示すとおりである(この計算では、積立金運用利回り=0.5%、物価上昇率=0%、実質賃金上昇率=0.5%と仮定した)。

 この場合には、2045年度以降の積立金は40兆円台にまで減少するが、それを維持できる。つまり、厚生年金財政は破綻しない。

 このマクロ的仮定の下でマクロ経済スライドを実施しないと、前回示したように、37年度の積立金残高はゼロになる。それを回避できるのだから、大きな違いがある。

 マクロ経済スライドがこのように大きな効果を持つのは、既裁定の年金(すでに受給されている年金)について年金額の調整が行なわれるからである。これまでの年金給付額の改革はすべて、将来裁定される年金に関するもので、既裁定年金には手をつけてこなかった。裁定された年金は一種の財産権と見なされ、神聖化されてきたのである。既裁定の年金に手をつけたという意味で、マクロ経済スライドは、従来の年金改革とは異質の性格を持っている。

 ただし、問題は、マクロ経済スライドを現実に実施できるかどうかだ。現在の制度では「年金の名目値が減る場合には実施しない」こととされている。この制約があるため、マクロ経済スライドは現実には発動されていない。

 この制約は意味があるものだろうか? どの程度の年金が必要かは、本来は実質値で考えるべきだ。また、年金財政の観点から見ても、マクロ経済スライドは、人口構造の変化というリアルな現象に対処しようとするものだ。

 どちらの観点から見ても、物価上昇率が低く(あるいはマイナスで)年金の名目値が増えない場合であっても、マクロ経済スライドは実施すべきである。
 しかし、現実には、デフレスライドすらしていない。所得代替率が上昇しているのは、このためだ。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄 2040年「超高齢化日本」への提言

日本社会は、世界でも稀に見る人口高齢化に直面しており、このため、経済のさまざまな側面で深刻な長期的問題を抱えている。とりわけ深刻なのは社会保障であり、現在の制度が続けば、早晩破綻することが避けられない。この連載では、人口高齢化と日本経済が長期的に直面する問題について検討し、いかなる対策が必要であるかを示すこととしたい。

「野口悠紀雄 2040年「超高齢化日本」への提言」

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