年金支給総額を削減する方法としては、前回述べたマクロ経済スライドのほかに、支給開始年齢の引き上げがある。以下では、この2つの方法の比較をすることとしよう。

マクロ経済スライドで
2040年の支給総額約2割減

 計算に先立って、これまでのシミュレーション計算のまとめを行なっておこう。

 基準ケースは、当連載第5回の図表4に示したものである。このケースでは、物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りがすべてゼロと想定されている。保険料収入や給付総額は、2014年の財政検証のケースGを基として、物価上昇率、賃金上昇率、運用利回りがすべてゼロの場合を算出している。

 ところで、ケースGでは物価上昇率が0.9%とされているので、現在の制度でもマクロ経済スライドが可能である。それに対し、第5回の図表4では物価上昇率をゼロとしているので、現在の制度ではマクロ経済スライドを実施できない。

 第5回の図表4の数字は、その制約にしたがい、マクロ経済スライドを実施しないとした場合のものである。これは、第5回の図表3のG"の結果を用いたものである。これをどのように算出したかは、第5回の図表3の下の「【2】ケースGを基礎とする場合」で説明した。

 つぎに、「物価上昇率がゼロであってもマクロ経済スライドを実施する場合」を計算した。結果は、第7回の図表1に示すとおりである。

 なお、この計算では、積立金運用利回り=0.5%、物価上昇率=0%、実質賃金上昇率=0.5%と仮定した。積立金運用利回りと物価上昇率の仮定は第5回の図表4とは異なるが、物価上昇率はどちらも0%なので、マクロ経済スライドを実施しない場合の支給総額は、第5回の図表4と同じになる。

 積立金運用利回り=0.5%、物価上昇率=0%、実質賃金上昇率=0.5%の場合において、年率0.9%のマクロ経済スライドを実施しない場合と実施した場合の結果を、ここに図表1として示そう。

 マクロ経済スライドを実施した場合の年金支給総額の削減率は、実施しない場合に比べて、20年度には5.3%でしかないが、30年度には13.5%、40年度には20.9%になる。

マクロ経済スライドか、支給開始年齢の引き上げか<br />――年金財政破綻回避のために必要なこと(注)eは当連載第5回図表3のG"の数字(マクロ経済スライドを実施しない場合)。e'は年率0.9%のマクロ経済スライドを実施した場合。どちらも、積立金運用利回り=0.5%、物価上昇率=0%、実質賃金上昇率=0.5%と仮定。