「下がるだけ下がれば、後は上がるだけ」――。

 上海株価指数も1700ポイント台にまで下がった今、「底か」とばかりに証券会社で口座を開く上海人も少なくない。失望と希望が交錯し、上海市民の気持ちは揺れる。崔さん(仮名・40歳)もそのひとり。それを見て年老いた父親がこう言った。

 「中国の場合、ゼロが底じゃない。“地下室”もあるから注意しなさいよ」

 笑うに笑えないブラックジョーク。現に中国は今、好循環が一転して悪循環に振れ始めた。北京五輪までのあの勢いはどこへ行ったか、新聞紙面も恐ろしく暗い。「台湾企業が夜逃げ」「アディダス中国撤退」「自動車部品産業が打撃」など、ここ10年来見たことのないタイトルが踊るようになった。

消費欲も消え失せ
高級店には閑古鳥

 上海では、あれほどにぎわっていた高級レストランから往時のにぎわいは消えた。名物だった行列が忽然としてなくなった有名店もある。今となっては広すぎる営業面積、客のいないフロアの電気は消され、開店休業状態の店も。こと「食」に関しては糸目をつけなかった市民が、ついに食費を削り出した。つい最近までは奪い合うようにして乗ったタクシーだが、運転手は「乗客がだいぶ減った」と話す。

 高級ブランドも出口を失った。従来は季節ごとのクリアランスが在庫を調整してきたが、最近は見本市会場を借り切って叩き売りをする風景がお目見え。中国人の爆発的人気を享受した、あのバーバリーもある。その奥にはB級ブランド衣料が山のように積み上がる。

 あれだけ旺盛だった「消費意欲」と言うものはどこへ行ったのか。

 高額所得者を顧客に持つ外資系銀行の担当者はこう言う。「100万元(1元=約15円)をファンドで預けていたお客さん、今は30万元に減ってしまった。つまり、上海市民の資産は3分の1に目減りしてしまったのです」

 「息子の預金も抱き合わせて、10万元をファンドで運用したんだけど、今じゃ価値は半分以下。怖くて家族に言えません」と泣くに泣けない庶民もいる。

 ちょうど昨年の今頃、上海市民は2度目の6000ポイントを夢見ていた。バクチ好きな中国人、中にはポートフォリオも組まず、すべてをドカンとファンドにつぎ込んだ高額所得者もいた。恐らく、今年のクリスマスからは、例年繰り返されたあのバブリーな消費は消えるだろう。