
中国EVの雄・BYDが5月に打ち出した大幅な「一律値下げ」が波紋を呼んでいます。株価は急落、業界全体に不穏な空気が広がっています。しかし、これを機に「中国産EVは終わった」と考えるのは早計かもしれません。背景には、中国経済の減速やアメリカの動き、そしてかつて世界を席巻した日本の自動車業界と重なる兆しが…。表面的な騒動の裏にある“真の戦略”を読み解きます。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)
「破壊的な価格競争」は失策か?
BYDが利益と株価を手放した理由
5月26日に香港市場で中国の電気自動車大手BYDの株価が▲8.6%と急落しました。きっかけは、この5月にBYDが中国市場で仕掛けた大幅な価格競争です。
BYDは株価急落の直前まで、売り上げも好調で株価も過去最高値を記録していたのです。一方で、BYDは今年はかなりストレッチした目標を置いています。具体的には世界販売台数550万台を目指しているのですが、4月末時点での販売台数は138万台と、3分の1の期間が過ぎた時点での達成率は25%にとどまっています。
そこで値引きで販売力を加速させようとしたのですが、その経営判断に投資家が懸念を抱いた形です。さらに投資家だけでなく業界からも悲鳴があがっています。この競合他社を巻き込んだ価格競争は持続的ではなく、これをきっかけに中国の自動車業界は淘汰され再編が起きるだろうというのです。
実際、株価が急落したのはBYDだけではありません。値下げに追随したことで、吉利汽車、長城汽車、小鵬やニオなど主要な自動車会社の株価も軒並み下落しました。
中国の自動車市場は曲がり角に来ているのでしょうか?中国産のEVの勢いはここで止まるのでしょうか?そしてEVバブルは崩壊するのでしょうか?状況をまとめてみたいと思います。
まず最初に今回の価格競争について整理します。