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莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見

上海で大ブーム!
我が郷愁の味「鮮肉月餅」余話

莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
【第227回】 2014年10月9日
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 1980年代のことだった。当時、私は上海外国語大学で教鞭をとっていた。同僚には日本人教師Y氏がいた。ある日、上海を訪れてきたY氏の友人である日本人が保冷パックに入れたお寿司のお弁当を持ってきた。鮮度を維持するために、日本で飛行機に搭乗する直前に購入したものだそうだ。Y氏はそのお寿司を頬張りながら、涙をこぼした。大の男が泣いているのがやはり恥ずかしいと思ったのか、「お寿司に入っているワサビが効きすぎた」と、Y氏は照れていた。

 その頃、お寿司の美味しさをまだ理解していなかった私でも、Y氏はけっしてワサビが原因で涙を流したのではなく、間違いなく故郷の味に、その故郷の味によって引き起こされた強烈な郷愁に泣いていたのだと分かった。

新橋駅近くの小さな上海料理店

 異国の地に生活の基盤を作り、来年で来日30年を迎えるいま、日本をすっかり第二の故郷だと思っているが、それでも郷愁、故郷の味に強く惹かれる。Y氏の当時の心境をいまは私が常に体験している。1ヵ月前のいま頃、中秋の節句を迎えた。そのときも例年より強く郷愁と故郷の味を意識していた。なぜかというと、例年よりも故郷の味を口にする機会がかなり増えたからだ。

 東京の新橋駅の近くに「味上海」という小さな上海料理店がある。ギュウギュウ詰めでも最大20名しか入れない小さな店だが、伝統的な上海料理の味で人気を集めている。その味上海から、中秋の節句の祝いとして常連客に「鮮肉月餅(豚肉餡月餅)」が配られた。日本では馴染みは薄いが、実はそれは上海の名物菓子だ。日本でそれを手にできた意外性とその味の美味しさに、常連客たちが一様に歓声を挙げた。夜、歯を磨いた後は絶対何も食べないという誓いを貫いてきた妻ですらも、できたての「鮮肉月餅」を持ってきたと聞いたら、抵抗なく1個を口に入れた。

 中華料理研究家として日本で活躍している小薇さんも、料理教室のメニューにこの鮮肉月餅を登場させている。自宅の近くにある中華レストラン「百宴香」も鮮肉月餅のお土産を用意してくれた。私は前出のY氏のように涙を流してはいないが、鮮肉月餅の味に郷愁を噛みしめた。

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莫邦富(モー・バンフ) [作家・ジャーナリスト]

1953年、上海市生まれ。85年に来日。『蛇頭』、『「中国全省を読む」事典』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーに。そのほかにも『日中はなぜわかり合えないのか』、『これは私が愛した日本なのか』、『新華僑』、『鯛と羊』など著書多数。


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地方都市の勃興、ものづくりの精度向上、環境や社会貢献への関心の高まり…中国は今大きく変わりつつある。先入観を引きずったままだと、日本企業はどんどん中国市場から脱落しかねない。色眼鏡を外し、中国ビジネスの変化に改めて目を凝らす必要がある。道案内人は日中を行き来する中国人作家・ジャーナリストの莫邦富氏。日本ではあまり報道されない「今は小さくとも大きな潮流となりうる」新発見を毎週お届けしよう。

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