脳の万能ナイフと称されるマインドマップ。このカラフルな思考ツールは、トニー・ブザンが大学講師だった頃、何とか学生の記憶に残る講義をしたいという工夫から始まり、記憶法をベースとして開発された。記憶は「丸暗記」などと言われて創造的ではないイメージがあり、軽視されがちだが、実は脳の機能を総動員して記憶力を鍛えることは、素晴らしい脳トレになるのだ。

退屈な講義を面白くする工夫から始まった

 マインドマップを考案する直接のきっかけになったのは、トニー・ブザンが大学講師となった30歳の頃の体験である。

 今ではスピーチの達人として知られるトニー・ブザンだが、当時は他の講師と同様に、抑揚のない声で講義ノートを読み上げていた。ある日のこと、学習中の記憶について講義していた彼は、単調にテキストを読み上げる自分に飽き飽きし、学生のためにもならないことに気づいた。

 その日の講義は系列位置効果がテーマだった。

「リスト形式で提示された事柄を学習する場合、リスト内の位置によって記憶が影響を受け、冒頭部と終末部の項目が記憶に残りやすい。これをそれぞれ初頭効果と新近性効果という。書き取れましたか?もう一度、繰り返すと……」

 トニー・ブザンは学生たちが一心不乱にノートを取っているのを見て、これではいけないと感じ、学生の記憶に残るような講義をしたいと考えた。

 そこで、系列位置効果、さらには、イメージが鮮明(印象的、または目立っている)だったり、関連づけられた事柄は忘れにくいなど、記憶の法則をヒントにして話し方を工夫した。