安倍首相は、2015年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを2017年4月まで延期するとともに、衆議院を21日に解散し、「12月2日公示・14日投開票」の日程で、総選挙を行う方針を表明した。前回に続く師走選挙となるが、今回の総選挙は何が争点になるのだろうか。

2年半前の
3党合意という政治遺産

 先ず、今回に至る背景を概観しておこう。2012年3月30日に野田内閣は消費税増税法案等を国会に提出したが、3党(民主党、自由民主党、公明党)が修正協議を行い、6月21日に3党の幹事長会談で、3党合意を確約する3党確認書が作成されて、関連8法案すべてが成立した。これは「政権交代しても増税が揺るがぬよう、与野党を超えて協力する」(野田毅・自民党税制調査会長)という精神に基づいて、社会保障と税の一体改革の実現を目指したものであった。

 けだし、いずれの政権も不人気な消費増税を決め切れなかった経緯があり、どの党も単独では消費増税を正面から掲げて戦う状況にはなかったので、3党でしっかりと合意したという点に大きな意味があった。3党合意によって増税は2段階(先ず8%、次いで10%)で行われることが決まったが、「経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」という、いわゆる景気弾力条項(附則18条)が織り込まれた。

 今回、7~9月期の国内総生産(GDP)速報値が年率換算マイナス1.6%となったことから、首相は、景気弾力条項に基づいて、来年10月からの引き上げを「停止」する判断を固めたと報道されている。このGDP速報値が出された後に開かれた「今後の経済財政動向等についての点検会合」では、有識者10人中8人が予定通りの増税に賛成しており、次のような意見が出されている。

① 雇用、企業収益は順調で腰折れリスクは小さい。構造的な失速要因が無い限り予定通り増税すべき。今年4 月の引き上げによる消費・住宅関連支出の反動減で景気は中だるみ状態。しかし雇用環境が悪化するほどの景気停滞ではない。
② 消費税増税後の個人消費が弱いのも事実であり、追加金融緩和に加え、補正予算・賃上げは必須である。「ローカルアベノミクス」(地方創生)の推進による雇用の質の向上、短期的には低所得者対策(所得補てん施策、子育て支援、教育・訓練支援、最低賃金引き上げ等)が重要。
③ 巨額の財政赤字を抱え、主要国で最悪の政府債務水準。株価も高水準で景気も底堅い状況において、消費税率引き上げを先延ばしすることは、内外の投資家に対して「日本政府は財政再建を遂行できない」という強い印象を与える。